Barcarole of Prisoners
□運命の分岐点
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何かを変えるということは、その先に連なる全てを変えるということ。
これは、取り戻すための世界。やり直すための世界。
未来は変わる。変えられる。だが
それがその先に何をもたらすか、予測することもまた、不可能になる。
世界は、自分の知らない明日を歩み始めるのだから。
「グレイグ!」
「ひ、姫様!なんとはしたない!もう少しちゃんとお洋服を着てください!」
「オフショルなんてそんなものよ、そんなことよりどこに行くの? あの人はどこに行ったのよ」
「それを今から確かめに行くのです、姫よ……王が参られましたな。では、私はこれで。」
グレイグはそう言うと王に続いて城を出ていく。
「追わなくちゃ」
その前に。
私は部屋に戻って二匹の猫を元に戻した。
(わあ!姫様!気がついてくれてたんだね!)
「サム」
ああ、サムが生きてる。私達と共に1度は死んでしまったサムが。
(姫様。あいつ魔王だぞ)
(追わなくていいの?)
「そうね、そう。追うわ。ただ……しっかり追い込まないとね、それこそ魔王なのだから……ラム、サム、貴方達はグレイグとホメロスの安全を優先してちょうだい。」
(僕がホメロス!)
(好きにしろよ。分かった。じゃあ、俺がグレイグだな)
「頼むわよ、頼もしい私の下僕たち。さあおいき。お前たちは先に」
二匹の獅子が駆けていく。
「さて、私も向かわなくちゃ。リーフ」
厩でリーフに跨り、そのまま天馬にさせて空をかけた。全速力で。
「ホメロス……今度こそ、守ってみせるから」
──私はまだ知らなかった。
未来を変えるとは、思い通りにならないことが、またひとつ増えることに等しいということを。
勇者は、ホメロスの攻撃を全て魔王の剣で切り裂き無効にした。彼の、最期の抵抗の魔法まで。
それを塞ぎきって、魔王の剣は跡形もなく崩れてしまった。
足元にころがったその破片を、デルカダール王が拾い上げる。
「この破片は……」
グレイグは目の前の惨状に気が動転していた。
「ホメロスを追って来てみれば、これは一体……この場で、何が起こったというのだ?」
「グレイグよ。この者の姿を見るが良い…。デルカダール王国の将として仮面をかぶりつつ、裏で魔物に魂を売っていたものの末路じゃ」
「っ…!」
そこには、力尽きて倒れたホメロスの姿があった。
「グレイグ、聞きなさい。魔物の手先として暗躍し続けていたのはレオンじゃないわ。ホメロスだったのよ」
「うっ……」
「……やはりそうだったのか。ホメロスよ…お前ほどの男がなにゆえ魔物に……」
「はあっ、はあっ……お、お助けくださいませ……」
ホメロスが、王に向かって手を伸ばす。
王が剣の塚に手をかけるのを見たサムは叫ぶ。
(あぶない!ホメロス!)
叫んでも、このホメロスには聞こえないのに。
叫びながら、ホメロスを庇うように白い毛玉が飛び込むのと、王の剣がホメロスを切り裂くのはほぼ同時。
「ぬんっ!」
王の剣は、1匹と1人に叩きつけられた。エレナはちょうどその光景を目の当たりにした。
「っあ……!」
ホメロスから、声にならない悲鳴が零れる。
グレイグとマルティナが、息を飲んだ。
「人民をたぶらかし、世を乱した悪魔の手先め。死をもって償うがよい」
「くっ……ぁっ……、」
ホメロスは、ここで倒れた。その身体が、闇の霧となって消えてゆく。
「ホメロス……?」
今、目の前で何が。
あの人は? あの人は、どこへ?
「グレイグよ。よくぞホメロスの正体を見抜き、わしをここまで連れてきてくれた。そなたがいなければ、わしはずっとホメロスの口車にのせられ、魔物たちのたくらみに手を貸していただろう」
言葉が耳に入ってこない。
「っ……!ありがたきお言葉。ホメロスの凶行を事前に食い止めることが出来、幸いでした。」
グレイグ。何を言ってるの?
「レオンよ……。今までのわしの行いをどうか許して欲しい。わしは今までホメロスから、勇者こそが魔物を呼ぶ存在、悪魔の子なのだと説き伏せられてきたのじゃ」
「……嘘よ」
「何?」
「嘘よ。そんなの嘘。全部嘘よ。何もかもあの人のせいにして、狡いわ。狡猾で卑怯な悪魔め。それは貴方の事でしょう?」
「おば様、」
「返して!私のホメロスを、返してよっ!」
貴方のせいよ。全部全部、貴方のせい。あの世界が闇に沈まなくてはならなかったのも、あの人が闇に囚われなければならなかったのも、義兄様も姉様も死んでしまったのも。そして今度は、愛しいあの人まで。
全部全部、貴方のせいよ。
返してよ。私の大切な人たち。奪った全てのものを。
「うわあああ…!」
槍を手にデルカダール王に飛びかかった。
グレイグの大剣が、それを阻む。
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