Barcarole of Prisoners

□過ぎ去りし時を求めて
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背負ったもの全て 捨ててしまおうか
それとも
捨てられないものと共に 沈んでしまおうか

我が身一つなら軽いものを
捨てられないから 想いは重い


旅を続けよう
2人ならば きっと
重い荷物も 少しは軽く

だから どこまでも共に
旅を続けよう
この命 続く限り
人生という名の 旅を


───それは、果てしなき航路をゆく、囚人たちの舟唄。




~Barcarole of Prisoners~





──魔王ウルノーガが倒され、命の大樹が甦ってから、数日後。
勇者たちは、ベロニカを弔うために集まっていた。

「お姉様、見てください。今日は世界が平和になったお祝いをするため、こうして皆さん来てくださったんですよ」

不意に吹いてきた風に、一行は声をあげた。

「ああ……命の大樹が、あんなに気持ちよさそうに葉を広げていますわ」

皆、大樹を見上げた。

「今まで色々あったけど……アタシたち、本当に世界を救ったのね」
「……悪しき魔王の手によって、この世界は1度、闇に覆われました。私たちは尊い多くの命を失った……。でも、私たちはこうして生きています。生きて笑っていれば、きっと何度だってやり直せますわ!」

セーニャはそっと目を閉じた。

「それに、いつまでも泣いていたらお姉様に怒られてしまいますものね…。」

セーニャは少し屈んで、ベロニカの口調を真似た。
そして、笑った。
仲間たちも一緒に。
そこへ、ラムダの民が声をかけてきた。

「おお、レオン様。こちらにいらっしゃいましたか」
「……??」

声のした方を全員が振り返る。
どうやら祝杯の宴の主役がいないことに、里の者がしびれを切らしているらしい。

「待ってました!祝杯の宴よ!さあ!行きましょ、レオンちゃん!」

シルビアにそう促され、勇者は仲間たちと共にラムダの郷へと向かった。
里は大層賑わっていた。

「ラムダの人達は厳格な方ばかりだと思っていたけれど…平和になって嬉しいのはみんな同じね」
「せっかくの宴だ。オレたちもパーッと楽しもうぜ!ベロニカが羨ましがるぐらいにな!」

カミュの言葉に、全員が頷いた。




しばらく宴を楽しんだ後、勇者は里の外へと足を向けた。

「どうしたの? どこか行きたい所があるなら、アタシたちもついて行くわよ」
「ほかの街にも、行きたいなあって」

勇者はそう返した。

「そうね! 平和になった世界も見て回りたいし、気になるコトがあるならテッテー的に調べておかなきゃ!」

次にカミュが口を開く。

「なあ、そういえば、グロッダの街の南で何か光っているのが見えなかったか? オレはあれが気になるんだが……」

どこに行くかはお前に任せるよ。

カミュはそう言うので、勇者は自分で行先を決めた。
まずは故郷から。イシの村、もとい最後の砦では住民とデルカダール兵が協力して復興が進められていた。

マルティナは父に、1番忙しい時に暇を貰ったことを詫びた。
父はそんな娘に、久しぶりに仲間との再会を楽しむこと、イシの村の復興が終わり、デルカダール王国の復興の時にはマルティナにも頼むということを伝えた。
王の言葉に、グレイグも敬礼した。

一行はデルカダールの旗を見上げる。

「……グレイグよ」
「はっ」
「あの姫は……ロウ殿の娘の。うっすらとしか覚えておらぬが、我が城で過ごしていたであろう? あの姫は今どこにおるのじゃ?」
「王よ、姫様は……」

マルティナがそっと目を伏せた。

「ホメロスと、共に。その命を終えました」
「何と!? ロウ殿はご存知なのか?」
「ええ……ロウ様も、私たちと一緒に見送りましたから……」
「そうであったか……」
「でもね、お父様。違うの。彼女は……魔王の手先になったわけではなくて。彼女はただ……」
「ホメロスを……姫様はホメロスを1人で逝かせたくなかったのだと……ただそれだけだったのです、王よ……」
「ふむ……そうだったのか……」

ホメロスは、あれからずっと行方不明だということになっている。

王と別れ、イシの村を復興している兵士たちの元へグレイグは顔を出すことにした。

「グレイグ将軍。ホメロス将軍は、どこに行ってしまったのでしょうね…」
「行方不明だなんて……ホメロスしょうぐ~ん」

中には酒場で酔いつぶれて泣いているものまでいた。
隊の者の中にはホメロスを慕うものも多かった。

(だというのに、何故だ、ホメロス。お前だって、誰かの光だったというのに)

言葉が足りなかった。自分はいつだって、気づくのが遅い。

もっと早く、王の異変に気づいていれば。もっと早く、ホメロスの闇に気づいていれば。
もっとホメロスと話をしていたら……今も共に時を刻めたのだろうか。
少しは違う明日があったのだろうか。
我が隣に、友がある未来があったのだろうか?

「あ、グレイグ将軍ちょうどいい所に!」

兵たちの駐屯所になっているテントから、元々ホメロスの部隊だった兵士がグレイグを手招きした。

「本当はホメロス将軍にお見せするつもりだったんですけど……世界は平和になったと言うのに、ホメロス将軍はいつまで経っても帰ってきてくださいませんから……グレイグ将軍に、先に見てもらおうと思って」
「何だ?」

駐屯所の中には絵を描く用のスタンドがあった。

「うちの部隊にたいそう絵の上手い奴がいまして、奴はホメロス様とエレナ様が一緒に居るところを見るのが好きすぎて、遂に絵にしてしまってたんです……奴は大樹が落ちてまもなくに死んでしまいましたが、この前その絵を見つけて……見て頂けますか? グレイグ将軍」
「もちろんだ」

白い掛布を兵士がとると、そこにはソファーの上で、エレナに膝枕をされて眠っているホメロスの絵が現れた。

「こ、これは……」
「後ろに字が書いてあって……"ある日のホメロス将軍。エレナ様はまるで女神だ。お二人がいると宗教画になる……ああ、お許しください、ホメロス様。描かずにおれなかったのです"……まったく、ホメロス将軍が見たらなんて言うんでしょうね」
「そうだな……叱りは、しないだろう。この絵…いつかデルカダールが復興するまで、取っておいてくれるか? 俺が引き取りたい」
「勿論ですよ!」

マルティナと勇者も後ろからそれを覗いた。

「綺麗ね、エレナ様」
「ホメロスも無防備に寝たりしてたんだね」
「一体いつどこで……このソファーは……あのピアノ部屋か?」
「"ある日の"しか書いてないですからねえ…いつ頃なのかもまったく分かりませんね」

兵たちはこぞってグレイグとマルティナ姫と勇者を見送った。

「逞しいデルカダールの兵たち。彼らがいれば百人力よね、グレイグ」
「はい!必ずやデルカダールも復興することが出来るでしょう」

それじゃあ、行こうか。

勇者の一言で、2人はイシの村を後にした。






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