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□君が為
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双頭の鷲と呼ばれる我等は



どちらが欠けてもダメなのだ








ホメロスは珍しく薬に関する本を手にしていた


「アメジス草……?聞かぬ名だな。あるといいが」


ホメロスはその薬の生成に必要な薬草名を確認して、本を戸棚に戻して倉庫へ向かった


薬草のみ集めている戸棚を見てみるが、お目当ての薬草はやはり見当たらない


「やはり無いか……生息場所を調べねばならんな」


ホメロスはもう1度図書室へ戻り、先程の本を手に取る

本によると、生息場所はバンデルフォン地方らしい


「は?あんなところまで行かねばならんのか……」


とはいえ、大切な人を助けるためだ。そんなことを言っている場合ではない


ホメロスは自分の持ち物を軽く確認し、バンデルフォン地方に向かって一人旅立った






一方のグレイグは、というと


あまりの体調の悪さに食事もろくに喉に通っていなかった

食べても戻してしまうのである


そんなグレイグの世話はグレイグ隊の隊員達の数人がせっせとしていた


「ホメロスは?」


ふと、グレイグが問う


「ホメロス様ですか?出かけたようですよ。」

「何処へ?」

「確か、バンデルフォン地方でしたっけ。探しものがあると言ってましたが」


グレイグの顔色が変わる


「バカ!あそこには俺がやられたデカブツがいるというのに…!」


咳き込んだグレイグをなだめるように隊員の一人が寝かせる


「そうだったのですか?」

「恐らく報告がまだでしたから……ホメロス様もご存知でないのでしょう」

「我等も誰も知りませんでしたし」


グレイグはホメロスが心配でたまらない


「大丈夫ですよ、グレイグ様。ホメロス様のことです、案外すんなり撃退して帰ってきてくださいますよ」

「そうですよ。ですから、グレイグ様はまず体調を治すことだけお考えください」


ラリホーと言って、隊員はラリホーをグレイグにかけた

それ以上は何も言えぬまま、グレイグは眠らされてしまった





バンデルフォン地方に降り立ったホメロスは、かつては花の都と呼ばれた廃墟で、ほんの少し物思いに耽っていた


「ここがグレイグの……」


都の面影はほとんどない


あるのは瓦礫と徘徊する魔物だけ


グレイグと出会った日を、思い返してみる


ボロボロになって、布にくるまって、怯えていた


だのに今となっては最前線をきる将軍


輝かしい光となって、国を、自分を、照らしている


「グレイグ……そうだ、草を探さねば」


目的を忘れては元も子もない

今この間も、グレイグは苦しんでいる

一刻も早く草を手に入れて帰らねば


ホメロスは本の挿絵を思い出しつつ高原を歩いた

小麦と一緒に生えるらしい。が

ここにはいくつも小麦畑が広がっている


「これは骨が折れそうだな…」


ホメロスの髪、俺の故郷にある風景によく似てるんだ。だから大好き


いつかにそんなことを言われたことを思い出す


「これの事だったのか…」


どれだけ大変でも、必ず見つけて帰る

そう言ってくれた、グレイグのために


ホメロスは暫く小麦畑を歩き回った

突如上空から奇声が降る


「何だ!?」


見上げると大きな鳥のような姿をした魔物がこちらを睨みつけている

かなり深手をおっているようだが、その目は本気だ

負ける気は無いらしい


「邪魔をするな!」


鋭い鍵爪が眼前に迫る

それを左手の剣で受け止め、右手の剣で脚ごと跳ね飛ばした

怒った敵が翼から放つ真空刃が頬を切り裂く

かすり傷で済んだのは、ホメロスの瞬発力のおかげだろう


「目障りな…!消えろ……ドルマ!」


手から放たれた闇の炎が相手を包む

怯んだその隙を逃さず、間髪入れずに両手の剣で2発叩き込んだ

先に負わされたダメージもあったのだろう

魔物は紫の霧となって、霧散していった


「はぁ、はぁ……手間取らせてくれる……なんなんだ、冗談じゃない」


息を整えて、ふと魔物が消えたあとを見ると、本で見たものとよく似た植物が生えていた


「これだな。よし」


ホメロスを丁寧にそれを摘み取ると、城へと帰還した

再び本を見ながら慣れない手つきで薬の調合を行う


「これでいいのか…?」


一応僧侶に確認をしてもらい、グレイグの部屋へ向かった


「おい、グレイグ。具合はどう、」

「このバカ!無事なのか!?」


入るなりホメロスの言葉を食い気味に怒鳴るグレイグ

ホメロスは少し腹が立って言い返す


「な、なんだいきなり。お前の為にわざわざ行ってきたというのに…」


グレイグは手招きをする

ホメロスは溜息をつきつつ枕元まで歩いた

グレイグは徐に手を伸ばすと、ホメロスの頬の傷にそっと触れる


「ほら見ろ。こんな傷を作って…綺麗な顔が台無しだ」

「この程度、かすり傷だ。気にするまでもない」


ベホイム、とグレイグの口が動く

痛々しかった傷は幾分マシになった


「そんなことより、俺はお前が心配で……!」


ホメロスは一度言葉をきると俯いた


「ホメロス?」

「…なあ、グレイグ。お前がいなくなってしまったら、なんて、考えるだけでも恐ろしい。」


ホメロスの頭には、大怪我をして高熱にうなされていたグレイグの姿が浮かんでいる


「…お前を、光を、失ってしまったら。俺はきっと、もう二度と前を向けない。お前が俺の光なんだ…!」


隠しているつもりだろうが、ホメロスが泣きそうになっていることなど、グレイグにはお見通しだった


「お前が作ってくれたんだ。それを飲めばすぐ良くなるさ。安心しろ」


グレイグは俯いたホメロスの頭をクシャクシャと撫でた

ホメロスが少しだけ顔を上げる

長い前髪から覗く瞳の睫毛が、濡れている

グレイグはそんなホメロスのいじらしい姿がたまらなく愛おしかった


こらえきれず、両手でホメロスの両頬を包むと、そっと顔を近づけてその唇に口づけた


ホメロスは照れ隠しをするように、赤い顔をしたままそっぽを向いた


「ば、バカ!何やってるんだ、さっさと飲め!」


そう言って薬の入った小瓶をグレイグに渡す

受け取ったグレイグはひと思いに飲み干した

どこか、懐かしい香りがした


「すごいな、これ……よく効くようだ……」


薬の副作用か、グレイグはすぐに眠りに落ちてしまった

その寝顔の穏やかなのを確認し、ホメロスは満足そうに微笑む


「なあ、グレイグ……」


生き残ってくれて


俺と出会ってくれて


ありがとう


口に出すことはせぬまま、ホメロスはそっとグレイグのそばで目を閉じた



───君が為───


(ホメロス。お前が俺の光だったんだ──そう語られるのは、また後の話)

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