Release from the darkness

□私とワルツを
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星が踊る


夜の帳に包まれながら


星が、踊る


見えない旋律に、身をゆだねて







朝の鍛錬から戻ったホメロスは、城の妙な騒がしさに気づいた


「ああ、そういえば今日は」


我が王の、誕生日であったな──







読書に集中していたエレナの部屋に、コンコンと、ノックの音が響く



「はい?」

「私です、姫」


久しぶりに、聞く声な気がした


「ホメロス……??」


扉が開く音と同時に現れるのは、ここ数日ろくに顔も合わせていなかった軍師の顔


「どうしたの?」

「伝言がありまして。本日、何の日かはご存知で?」


私はブンブンと首を横に振った


「本日は我が王のお誕生日です。つきましては、各国からの使者やらがたくさん出入りを致します。貴方は部屋から出ないように……それだけです」


言いたいことだけいうと、ホメロスはすぐに背を向けてしまう


「ホメロス!待って!」


チラリとこちらを見やる目が、なんだか冷たい


「少しだけ……話をしない?」


ホメロスは私のそばに寄ってくると、くしゃくしゃと頭を撫でた


「すみませんが、私も本日は準備に追われます。また日を改めて……」


一度言葉を切って、ホメロスは言い直した


「いや、いいでしょう。少しだけなら。何です?」


ホメロスの服の裾を握った手が少しだけ震える


「ホメロスは、私のことが、欲しかったの……?」


ホメロスの目が驚きに見開かれる

しかしそれはすぐに元の切れ長の目に戻る


「欲しかったと、言ったら?」

「それは……」

「それで満足ですか?」

「ホメロス、」

「……私が何をしたのか、もう分かっているのでしょう?言ったはずです、"忘れてください"と。」

「忘れるなんて……できるわけないじゃない?」


何故か涙が零れた


「それもそうですね……でも、思い返すだけ辛いだけでしょう?ですから、思い出さないようにして下さい。私もなるべく、貴方の元に来るのは控えているつもりです」

「え……?」

「そろそろ参ります。いいですか?出てはいけませんよ」


では、と一言言って、ホメロスは部屋を出ていった


「ホメロス……私の、為に……?」


私がなるべく思い出さないように


その為に避けていたということ……?


「ねえ、どうして」


貴方はずっとそう


どうして私に


そんなに優しくするの……?






「最悪だな……」


ホメロスは自室に戻り、正装用の礼服を着ながらそう呟いた


多少窮屈だが、今日は社交の場に出る、仕方ない



「ほ、ホメロス!」

「なんだ、グレイグ、騒々しい…」



部屋に慌ただしく入ってきたのは、まだ着替えも終えていない友だった


「何をしている?さっさとしろ」

「着方がよく分からんのだ!助けてくれ!」

「は?侍女を呼べば済む話だろう?」

「俺のステテコパンツ姿を女性に見せられると思うのか!?お前は!」

「それもそうだな」


コイツは着替えも一人で出来ないのか……


心底呆れるホメロスである






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