Barcarole of Prisoners

□自分さがし
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「しかし、ホメロス。どういう経緯なのだ?」
「それはだな……」

ホメロスはこれまでの経緯をグレイグに語った。

「こ、国外追放だと!?」
「声がデカい。口を慎め」
「す、すまん……しかし、ホメロス。それではもうお前は、」
「我が王は……ほとぼりが冷めればなどと言っていたが……私はもう、二度と祖国の土は踏めないであろう。それだけの事をしたのだ、あの国に…その自覚はある。それに…これは、王と姫からの慈悲なのだ。あそこにいれば、私は石を投げ続けられる……私がそこに居なくていいように、考えてくださったのだ。」
「だがお前、姫のことは……」
「そうなのだ、グレイグ。何も思い出せない。分かっているんだ、どんな関係だったのかなんて。だが……心が空っぽだ。何も思い出せない。何の感情も無いんだ、本当に」
「ホメロス…」
「だが苦しい。悲しませるのも、苦しめるのも本意ではない。胸が苦しい。切なくなって、張り裂けそうで、潰れそうで……愛おしくて悲しい。なのに……分からないんだ、グレイグ。私には何も、分からないんだ……」
「ホメロス」

グレイグはそっとホメロスの肩に手を置いた。

「焦るな、ホメロス。つまりこれは、お前にとって、記憶探しの旅でもあるのだろう? 旅路の果てで、きっと姫様のことも思い出せるさ。大丈夫だ、ホメロス。お前が姫様を見捨てられるはずがない」
「何故?」
「お前にとって、姫様は……ともすれば命より大切な存在だったのだ。羨ましいぐらいだったのだぞ。それぐらいお前と姫様はいつも……だからな、ホメロス。元には戻らないかもしれないが……無理に戻る必要も無いのではないか? 今のお前なりに…答えを出せば、それで」
「グレイグ、」
「ホメロスよ。だがお前は……姫様相手では、話せぬこともあったろう。俺でよければ今宵話し相手になろう。我が友よ。語らおうではないか。久方ぶりにあったのだから……」
「っ、っ…、グレ、イグッ……、」
「辛かったろう、ホメロス。すまぬ。友が辛い時に、1番そばにいる、友であれなくてすまぬ……」

ホメロスはグレイグの服を握りながら泣いた。声はあげないまま、肩を震わせた。
グレイグはそんなホメロスをそっと抱きしめた。その身体が温かい事に、グレイグもまた、それでもホメロスが生きているのだと……その温もりを感じて、それを幸せに思うのだった。






翌日、ダーハルーネで海の男コンテスト改め海辺のコンテストが行われた。
ステージを出演者達が自由に使い、観客を楽しませ、最も観客を楽しませたものが優勝。そういうコンテストであった。

「はい、はい、はーい!それじゃ、ショーを始めちゃうわよ~!」

最初にステージに現れたのは旅芸人のシルビア。会場は既に大歓声だ。

「それじゃ、まずは……マルティナちゃ~ん♡」
「It's show time~♡」

バニースーツに身を包んだマルティナが現れる。

「ひ、姫様、なんとはしたない…!」
「好きだろ、お前」
「ホ、ホメ、ジャスパー!その言い方はないだろう!?」
「おや、違ったかな?」
「……違わない」

エレナはその会話を聞きながら、思う。
やっぱりグレイグにしか出来ないこともあるのだなあと。

マルティナ姫はトランプを使って簡単な手品をしたあと、舞台袖へ。

次にセーニャの演奏に合わせて、今度は姫衣装に着替えたマルティナが、勇者と妖精のポルカを躍る。

勇者の登場に会場は大歓声をあげた。

「おっと、そろそろ俺も行かないとな」
「いってらっしゃい、グレイグ」
「おお、姫。行ってまいります。では」

エレナとホメロスは再び二人きりへ。

続いて勇者の背中にベロニカが飛び乗り、火炎の陣と氷の陣を敷く。
そこへカミュが現れ、大地の陣を敷けば、重なり合う陣は弾けてキラキラと星が舞った。

「す、すっごーい!」

子どもたちは目を輝かせ、降り注ぐ光の粒をその手に集める。

「おっしゃあ!行くぜ、おっさん!」
「ああ!」

グレイグがはやぶさ斬りを放ち、それにカミュがさらにはやぶさ斬りを重ねる。
最後に勇者が更にはやぶさ斬りを重ねると……それは隼の形となって、観客の頭上スレスレを飛んでいった。

「きゃぁぁぁ…!」
「うわぁぁぁ…!」
「すっごーい!!」
「さあ、最後だよ!ロウさん!」
「任せーい!」

ロウとグレイグと勇者は連携し、大きな岩を掘る。

「わぁぁぁ…!」

歓声は収まるところを知らず響き渡る。
最後はシルビアが火吹き芸とジャグリングを披露し、勇者達の演目は幕を閉じた。

「練習したのかしら?」
「というよりは……あれは今まで培ってきた絆の先。連携技に近かった…共に苦難を乗り越えてきた彼らだからこそ成し得る技でしょう。そこにグレイグも居るのですね……」
「ジャスパー…」
「いえ、別に。良いのですよ。彼奴が決めたのです。勇者の盾となると…」
「貴方は、勇者の剣になりたい?」
「いいえ。私は……私は、勇者ではなく……私の主は……」
「主は……?」
「……私は、誰の騎士だと?」

エレナは少しだけ驚いて、すぐに顔をほころばせた。

「ええ、そうね、そうだったわ。やだ、私ったら。そうよね。そうよ……ジャスパーは、私の騎士。私の、剣であり、盾」
「そうあれるよう……努力します」
「貴方以外なんて、居ないのよ、ジャスパー」
「分かってますよ。分かってますから……さあ、いってらっしゃいませ。見つかるといいですね。ユグノアの民が。安心していってらっしゃいませ。貴方に仇なす者がいようなら、私が必ずお守りしますから」
「お願いね、ジャスパー」
「ええ……さあ」

エレナは修道服のままステージへと歩みを進める。

「姫様?」

ホメロスは剣の柄に手をかけて、いつでも抜刀できるように備えた。

「皆さん!お願いがあります!どうか私の歌を、聞いていただけないでしょうか?」

会場はざわついた。

「聴けばわかります。わかる方は……私が歌い終わったら、どうか私の名を呼んでください。お願いします…」
「エレナは何を考えておるんかの?」
「さあ? どうなさるつもりなのかしら」
「天使の歌声ですね。楽しみですね、お姉様」
「ええ。デルカダールでも有名だったみたいだし」
「へえ、そうだったのか。お前の叔母さん?」
「うん。そうみたい」

エレナはそっと用意されたピアノの蓋を開く。





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