Barcarole of Prisoners

□自分さがし
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「どうしたんだよ、相棒。いつも寝坊するぐらい寝てるくせに。」
「目が冴えてさ。あ、叔母さま。カミュの妹も救えたよ。ちゃんと……」
「そう。なら良かった」
「悲しいことは終わりにするって、決めてきたから……でないと、ね」

それは2人にしかわからないこと。
カミュは首を傾げた。

「ここ懐かしいよな。ホメロスに捕まったな、オレ。あいつめちゃくちゃイライラしててさ。いや、憎悪ってのは恐ろしいな。恨みは買うもんじゃねえ」
「憎悪? 誰に対する?」
「レオンかなあ。黙れ!ってすげー凄まれたんだよな、相棒のこと話すと。」
「そう……」
「えっと、レオンの叔母さんだっけ。ロウじいさんの娘の」
「ええ。エレナよ。よろしくね、カミュ」

噂をすればなんとやら。そこへホメロスがやって来た。

「姫。どうしたのですか。また眠れぬのですか? お願いですから黙ってでていかないでください。せめてサムかリーフを。」
「君がそれを言う?」
「何?」
「ほんと、どうしようもない人だよね、君」
「レオン、」
「カミュ。おば様よろしく」
「ん?おお…」

勇者はずかずかとホメロスに向かって歩いていく。どう見ても喧嘩腰だ。

「あ、お前は、悪魔の子……ではないな、勇者さまか。お前には詫びねばならんことが、」
「へえ?それは覚えてるんだ。なら謝ってもらおうかな」
「?? どういうことだ?」
「とぼけないでくれるかな、ややこしいから」
「とぼけてなど……まあいい。その……何と詫びていいのか分からんが……悪かった。今まで、お前を悪魔の子などと呼び追い回したこと……汚名を着せ、あげく、色々なところで亡きものにしようとしたこと……ごめんなさいではすまぬ。わかっている、だが……」
「……君が償う方法があるとすれば、そんなの一つだけだ」

勇者はホメロスの胸ぐらを掴んだ。

「おいおい」
「止めないで、カミュ」
「わかった……」
「っ……!」

駆け寄りかけたエレナを、カミュが引き止める。
叔母さまよろしくと言われたからだ。

「叔母さまを幸せにしろ。世界で一番幸せにしろ。不幸にするな。君の全てで叔母さまを幸せにしてみせろ。僕が許すのはそのあとだ。もし叔母さまを幸せにできないなら……僕はお前を許さない。末代まで呪ってやる。覚悟しろ」
「っ……、」
「おいおい。勇者さまの面じゃねえぞ、あれ」
「悪魔の子、ね……」

エレナもカミュも言葉を失った。

「……言い訳するつもりではないのだが。私は覚えていない、彼女を」
「ふざけるな!言い訳だろ、それ」
「っ……、」

どこにそんな力があるのか。
勇者は掴んでいた手を離すとホメロスを突き飛ばした。

「なら思い出せ!記憶はなくても心は覚えているはずだ。お前は日記だってつけてるはずだ。ありとあらゆる手段で思い出せ。甘えるな。忘れたことを免罪符にするな。逃げるな。なら全部思い出せ。話はそれからだ。覚えてないとか…口にしないでよね!頭いいくせに、そんなことも思いつかないの?ほんと腹立つ、」
「レオン、」

勇者はホメロスを1発殴った。

「君を見てるとイライラするんだよね!君は僕を見て虫唾が走ってたんだろうけど、僕だって同じだよ、それは。君を見てると虫唾が走るんだよ、おじいちゃんは、おじいちゃんは僕に、人を恨んじゃいけないと言った。でも、でも……!誰だよ、僕の村をめちゃくちゃにしたの。それも全部忘れたって?」
「……!」
「ふざけないでくれよ。僕よりずっと大人なくせに。デルカダールの将軍だったくせに。何なんだよ、ほんと……」
「……すまぬ。返す言葉もない」
「レオン……」

カミュが、ぽんと相棒の肩を叩く。

「それぐらいにしておこうぜ、相棒。夜中だし……明日はステージに出るんだろ。眠っておこうぜ。」
「え、出るの?」
「おう。皆で出るぜ、楽しみにしておいてくれよな。あ、こいつのことは任せろ。アンタはこっちのおっさんをどうにかしたほうがいいんじゃねえの? 悪かったな。でもこいつの言うことも一理ある。許してやってくれよな」
「え、ええ……」

エレナはホメロスの元で膝をおった。

「ホメロス。大丈夫?」
「……姫。あの青年の言うことは、全部正しい。そうだ。私はあまりにも……」
「ホメロス……時間がかかるのよ。焦らないで。ごめんなさい……私も、悪かった」
「悪くない。貴方は何も悪くない。それだけは確かだ……お願いだ、姫。そう言ってください……でないと……」
「ホメロス……」
「謝らないで、ください。貴方が謝ることなんて、何も無いんだ、だから……」
「ホメロス……」

エレナはそっと、ホメロスに回復呪文をかけた。勇者に殴られて、あざになっていたから。

「姫。村のことを……すっかり忘れていました。あの村にも行かねば。私が焼いた、村へ」
「ええ……順番にね、ホメロス」
「はい……」
「ホメロス、」
「世界で一番幸せに、か……姫。あの青年も、私と貴方をよく知っているのですか?」
「ええ。とても。とても良く、知ってるわ」
「そうですか……戻りましょう、姫。我々も」
「ええ…」

宿屋に戻ると、グレイグがいた。

「……ホメロス。」

小声でそう、名を呼ぶ。

「姫。先に戻っていただけますか」
「ええ…おやすみなさい。あまり遅くならないようにね」
「はい。おやすみなさい」

エレナは先に2階へ登った。

「久しいな、我が友よ。ふ、今の私はもう、ホメロスではないが」
「誰なのだ?」
「ジャスパーと、名乗っている」
「ジャスパー!?お前がジャスパーだったのか!?」

グレイグはその名前を聞いて驚いた。

「どうした? 何かあったか?」
「い、いや……その名は聞いたことがあるのでな……ソルティコでは街を救ってもらったと聞いたし、プチャラオではユグノアの姫を守った騎士だと……そうか、お前だったのか……」

ユグノアの姫を守った、だなんてそうそういないはずなのに、すぐにホメロスだと思い当たらないのはやはりグレイグの鈍さだった。






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