Barcarole of Prisoners
□赦すということ
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清き泉の目の前には、シーゴーレムが行く手を阻んでいる。
"この2人ね、小さい頃から兄弟のように育ってきたんだって。誰かさんたちみたいね"
ここに来る途中の休憩で、彼女はホメロスにそう告げた。
「か、母ちゃんのためにがんばる!」
「ヤ、ヤヒムがやるなら俺もやる!!」
その様子を見て、ホメロスは剣を片方だけ抜いた。
「……ならば、2人で倒してみるか?」
「え? 出来るかなあ」
「サポートはする。構えろ。」
子どもたちは自分たちなりにひのきのぼうを構えた。
「攻撃は全て私が引き受ける。姫。援護してください」
「分かったわ。」
「サムはラッドを庇え。攻撃するな。カウンターはなしだ」
(了解!)
わふっとサムがひと声吠えた。
「ヤヒム。お前は私の後ろにいろ」
「う、うん!」
「リーフ。ブレス系はお前に任せる」
(承知した)
「ヤヒムとラッドはとにかく集中しろ。戦闘中の極限の集中は、時に相手との絆で敵を討つ強力な技を生む……それを、連携技と呼ぶ」
「なんかすげー!」
「強そう!」
「だがそれだけに集中が必要だ。とにかく集中して、隙を見て相手に迎え。守りは捨てていい。それはあとの人間の役目だ」
『わかった!』
「ではいくぞ」
ホメロスはソードガードで全ての攻撃に備えた。
「守りの盾よ……スカラ!」
エレナはホメロスにスカラをかけた。
「ヤヒム、頑張ろうな!」
「う、うん!」
2人の子どもたちは各々シーゴーレムをひのきのぼうで叩いた。
「ホ、ジャスパー。倒せるの?」
「いや。ひのきのぼうだけでは厳しいだろう…サム。やはりカウンターしろ。日が暮れる」
(わかった!)
シーゴーレムがラッド目掛けて拳を振り上げる。サムがそれを庇って攻撃を受けてから噛み付いた。
「す、すげー。腕消えちゃった…」
「やりすぎだ、馬鹿。加減しろ」
(ご、ごめん……)
「…まあ、難しいがな、確かに」
続いてヤヒムへの攻撃をホメロスが武器で弾いた。
リーフは様子を伺っている。
しばらく2人の子どもたちはポカポカとシーゴーレムをひのきのぼうで叩いた。
「動きが鈍くなってる…?」
「ああ。もう一息だ。こいつらの息も合ってきている……サム。カウンターストップ。」
(うん!)
「よーし、なんか力でてきた!」
「僕も僕も!」
「よし。ならば息を合わせて2人で叩ききれ!」
『うん!』
「姫。念の為強化を」
「わかったわ!」
エレナは2人の子どもにバイキルトをかけた。
「ヤヒム!行くぞ!」
「うん!ラッド!」
『やぁぁあ…!』
2人の連携技がシーゴーレムに叩きつけられて、シーゴーレムは霧散した。
「やったー!」
「やったな、ヤヒム!俺たちやったな!」
「うん、うん!!」
「すごいすごい!よく頑張ったね!」
『ありがとう、お姉ちゃん!』
2人の子どもをエレナはぎゅっと抱きしめた。
「さあ、泉へ。貴方のお母様へのプレゼントを作らなくちゃ」
「うん!」
ホメロスはサムの頭を撫でた。
「サム。付き合わせて悪かったな」
(ううん。ホメロスさ、意外と子ども好き?)
「馬鹿言うな……別に、好きではない。まどろっこしい。私1人でカタをつけた方が早かったさ、だが……」
ホメロスは喜び合う二人の子供をみた。
「母のために、友と2人で……少し、昔の我々に似ていてな。懐かしかっただけだ」
(それって、グレイグとの思い出?)
「勿論」
(ふーん……今夜聞かせてよ。僕と姫様に、その話)
「嫌だ、恥ずかしい。あれは私と友だけの思い出だ……」
ホメロスは、自分の母親のために、グレイグと二人で花びらの入った氷を探したあの日を……2人の子どもに重ねたのだった。
「出来たわ。これでいいはずよ」
「ヤヒム!早速持っていこうぜ!」
「うん!」
「2人とも。帰りは馬に乗って帰りましょう。ひとっ飛びよ」
「え、いいの?」
「いいのか?」
「ええ。リーフ」
エレナは2人の子どもをリーフに乗せた。
「ぼく、馬乗るの初めて!」
「俺も!」
「大丈夫よ。そのお馬さん、上手に走ってくれるから……リーフ。安全運転でお願いね」
(承知した)
2人の子どもを振り落とさないようにしながら、リーフはゆっくりと歩き出す。
「我々は?」
「サム。2人ぐらい余裕よね?」
(うん!姫様とホメロスの二人乗り!? 張り切っちゃうぞ!)
「張り切らなくていい。姫。後ろと前は、どちらが好みで?」
「貴方の背中に、掴まってもいい?」
「ええ、構いませんよ。なら、先に」
エレナを先に乗せてから、ホメロスもサムに乗った。
「調子に乗って、振り落とさないでくれよ、サム」
(任せて!)
「頼むぞ」
(うんうん!)
「姫。しっかり掴まっていてくださいね」
「うん…」
エレナは背中から抱きつくように、ホメロスの背中に掴まった。
広い背中は温かく、彼が今生きていることを彼女に教えてくれる。
大きな背中。いつも、私を守ってきてくれた大きな背中だ。
「ホメロス」
「はい?」
「貴方のこの背中が、好き。私を、ずっと守ってきてくれた、この背中が」
「…………これからも。貴方が、望むのなら」
「なら望むわ。ホメロス。ずっと、ずっと……」
「姫の、仰せのままに」
"ああ、永遠に"
彼がそう返してくれないことを、エレナは少しだけ寂しく思った。
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