Barcarole of Prisoners

□赦すということ
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子どもが走っている。2人の男の子だ。

「わあ、シスターだ!見ない人だなあ」
「旅人さん?」
「ええ。各地を転々としてるの」
「へえ~」
「そうなのかあ」

ここでホメロスが、子どものうちの1人に話しかける。

「お前……領事の息子か?」
「うん。そうだよ? なんで?」
「そうか……姫。少し、この子どもと二人で話をしても?」
「分かったわ。じゃあ、私この辺りでこの子とまってるね。ね、僕。私と一緒に待ってくれるかな?」
「いいぜ!!」
「ありがとう。良かったら聞かせてくれない? 私、この街初めてなの」
「そうなのか!? なら、ちょっと案内してやるよ!こっちこっち!」
「姫、あまり遠くに行かないでくださいよ」
「はーい!」

エレナは子どもに手を引かれて行ってしまった。

「さて……」

ホメロスは子供の目をじっとみた。

「あ、あの……ぼくに何の用ですか?」
「お前には……きちんと、向き合う必要があるのでな」

ホメロスはフードとマスクをとった。

「え、え……あの、えっと……」
「この顔に、見覚えがあるな?」
「あ、あ……」
「もう、喉を潰したりせぬ。安心しろ……ああ、そうだ。私がお前にどれほど酷いことをしたか……謝ればいいというものではない。だから……お前が決めて欲しい。許すも、許さないも。私を」
「おじさん……おじさん、国外追放されたんでしょ?」
「ああ」
「悪いこと、したから?」
「ああ、そうだ」
「難しいこときかれても、ぼくにはわからないよ……」
「それもそうだな……確かに」

ホメロスはしゃがんで、ヤヒムと目線を合わせた。エレナがいつもそうしているように。

「非難してくれていい。私に、言いたいことはないか」
「べつに…もう、声出るし、助けてもらったし……」
「そうか」
「おじさん」
「なんだ」
「母上がいってた。悪いことしたら、ごめんなさいって必ず言うんだって。おじさんは、ごめんなさいしに来たの?」
「まあ、そうだ、そんなところだ……」
「じゃあ、ちゃんと言ってよ。ごめんなさいって」
「ごめんなさいで済むようなものでは…」
「分からないよ……」
「……すまん。だがな、少年。世の中には、ごめんなさいじゃ済まないことがあるんだ。ごめんなさいじゃ償いきれないぐらい、悪いことも……私はそれを冒している。だから国外追放なのだ。私はもう、デルカダールの将でもなんでもない。全てを失い、ここに居る。」

少年はこの大人の言うことがよく分からなかった。

「じゃあ、どうしたらいいの」
「そうだな……どうすれば、いいのだろうな」
「じゃあ、おじさん。ごめんなさいしたいなら……僕のおねがい、きいてくれないかな?」
「いいぞ。何だ?」
「母上をたすけたいんだ。僕が飲んだ、勇者さまがくれた、あれがあれば、母上もきっと、声が出るようになると思うんだ。でも、どうすればいいか分からなくて…」
「何を飲んだのだ?」
「えっとね、えっとね……さえ……さえ…なんだったっけ、さえ……なんとかの、みつ。」
「さえなんとかのみつ……」

ホメロスは少し考えて、喉に効くことから1つの結論にたどり着いた。

「さえずりの蜜か」
「うん!うん!それ!」
「霊水の洞窟だったな……」
「そうなんだ。でも、僕達、ひのきのぼうでちょっと遊んだことがあるぐらいだから……そんな所まで行けないし……おじさん、つよかったよね。勇者さまと戦えるぐらい、つよかったよね。だから、ぼくと、取りに行ってくれる?」
「分かった。だが少し待て。お前の友達にも話をしないといけないな、それでは」
「一緒に行ってくれるよ!きっと!」
「そうか……では2人を探そう。お前の友は、私の姫をどこへ連れていったと思う?」
「そうだなあ。岬の灯台かなあ」

ホメロスは再びマスクとフードをして子どもの後を追う。果たしてそこに2人はいた。

「もういいの?」
「おじさんがいっしょにいってくれるって!」
「マジか!? え、いいの?」
「ああ……姫。さえずりの蜜が必要らしいです。作っていただけますか。水は取りに行きます、今から、皆で」
「いいけど……皆?」
「ぼく達と、おじさんで取ってくる!」
「あら、貴方達、剣は使えるの?」
「ひのきのぼうなら使える!」
「ぼくも!」
「そ、そう……ジャスパー。ひのきのぼうで、どうにかなるの?」
「なりません。だから皆で行くんです。我々も同行します。姫はサポートだけしてくだされば」
「分かったわ。なら行きましょう。皆で」
「ジャスパーっていうのか?」
「ああ……」
「ふーん。じゃあ行こうぜ!日没までに帰らねえと、母ちゃんに怒られちまう!」

エレナとホメロス、そして二人の子供は、霊水の洞窟へと向かった。





「よいしょ、」
「よし、そのままよじ登れ」
「よいしょっと」

岩をよじ登る所はホメロスが子どもたちを抱き上げて上へ乗せた。

「姫。貴方も」
「へ、平気!」
「嘘をおっしゃるな。見てましょうか?登れないでしょう? そんなか細い腕で。」
「の、登れます!」
「そうですか? なら、見てるんですよ、私はここから」

ホメロスは上からエレナが登ってくるのをしばらく見ていが、途中で見かねて抱き上げに戻った。

「素直になればいいのに。お姫様がよじ登れるような岩肌では無いのですから」
「お姫様なのか?」
「まあ、岩なんか登ったことがない人だ」
「ふーん。俺は木も登れるぜ!」
「僕も!」
「木、木なら私だって!」
「張り合わなくていいですから……さあ、ここから先は魔物が出る。足元にも気をつけて。攻撃はなるべく私が引き受けるから、お前たちは私より前に行かないこと。いいな?」
「はーい!」

ホメロスを先頭に、子どもたちをホメロスとサムで挟む形で一行は洞窟を進んだ。

「でけー犬だ」
「サムって言うんだって。」
「サムー」
「サムー」
「アオーン…」
「鳴かなくていい。なんなんだ、もう……」

そんなことを言いながら付き合ってやるのだから、ホメロスは優しいとエレナは思った。

(どういう風の吹き回しだろうな)
「償いの、つもりなのかしら。そんな気がするの……何かあったのよ、あの子どもと、彼の間で。きっと」
(せめてもの罪滅ぼし、か……しかし、この様子なら存外、子どもができても大丈夫かもしれないな)
「な、何言ってるのよ!もう!」
(だぁ!? 殴ることないだろう!?)

エレナはリーフのおしりをペチンと叩いた。
照れ隠しだった。







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