Barcarole of Prisoners

□Departure of Prisoners
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エレナはリーフに掬われ、地上まで戻る。

(お前、翼をどうした)
「ああ……言うの忘れてた。あのね、リーフ。私ホメロスを助けた時に……ホメロス、1度死んでるの。翼と引き替えに……取り戻したのよ、私」
(ほう……そういう事か)
「うん。だからもう、天使のチカラは私にはない」
(それはどうかな)
「え?」
(天使のチカラとは言うが……同時にお前のチカラでもある。消えたのは与えられたチカラのみ。元々のお前のチカラは、あると思うぞ?)
「??」
(だから聴こえるんだろう…私たちの、声は)
「あ……」

リーフはため息をついた。

全く、この娘は本当に世話がやける。ぼやぼやしているのは相変わらずだ。少したくましくなったかのように見えたが、気のせいか。そうかそうか。

「ホメ…ジャスパー!どうしたの? 頭が痛いの? 大丈夫じゃないわよね、ほら、横になって、」
「姫……うっ、大丈夫、なのですか」
「私は全然平気よ!顔色も悪いわ、ホ、ジャスパー、これ飲んで。水」

エレナはホメロスに水を飲ませた。
膝枕をして、そっと背中を撫でる。

「すみません……」
「いいのよ。ゆっくり休んで。焦る必要ないのよ。この旅は……あなたが決めていいの。どこに行くのも、どうやって行くかも、どれぐらいの時間で行くのかも……だから」
「はあっ、はあっ……」
「何か、見えた?」
「ええ……、ああ……頭が割れそうだ……」
「ジャスパー……」

しばらく、ホメロスは頭を抱えて痛みに苦しんだ。
エレナは傍で回復呪文をかけたり、蘇生呪文をかけたりしてみるが、どれもいまひとつ効果はなかった。

そうこうしている間に密林はとっくに闇に包まれた。
動かせるようになったホメロスはリーフに運ばれ、エレナと一緒にナプガーナ密林のキャンプ場まで移動した。

「ホメロス……なにか見えたようね。記憶を見ると……頭が痛くなるのかしら」
(そうみたい。可哀想…)
(記憶を取り戻すとは、痛みを取り戻すに等しいか……追体験していくのだろうな。そのうち……与えたのは我が主とはいえ、なかなか……それだけ、業が深かったのだろうが)

エレナはそっとホメロスに毛布をかけた。彼は疲れて眠ってしまっていた。
その頭を、そっと何度も何度もなでる。
こうしていると、昔に戻ったようだ。

「忘れてたわ、すっかり。もう翼なんてないのに。危なかった…」
(全くだ)
(もう、姫様しっかりしてよね!今度は姫様がホメロスを守るって決めたんでしょ!)
「ええ……しっかりしないとね、ほんとね……ホメロス」

エレナは毛布に潜り込んだ。

「火、お願いね」
(はーい)

2人が寝静まった後、サムはそれを守るように丸くなる。

(贖罪と記憶探しの旅……記憶と罪は表裏一体。姫を思い出したいホメロスが必死になって記憶を取り戻せば取り戻すだけ、己の罪を自覚し、心は罪悪感に苛まれていく……過酷だな、かなり。それでも……それでも会いたいと……姫を思い出したいと思うお前は……変わらないのだな、ホメロス。ん?変わらないとは?いつと?)

突然遭遇したデジャブに、天馬すらも困惑するのであった。





翌朝目覚めたホメロスは、同じ毛布にエレナが入ってるのに気がついて悲鳴をあげた。

「ん……? どうしたの、ホメロス?」
「ど、どうしたのじゃありませんよ! 何故同じ布団に入っているのですか!? はしたない真似をされるな、エレナ姫」
「あら、ごめんなさい…」

そうだ、ホメロスに記憶はないのだから。恋人でもない女が、同じ布団に入るなど、よくよく考えたらおかしな話。

「あのまま寝てしまったのですね、私は……」
「無理もないわ。すごく、苦しそうだったもの」
「ああ、そうだ、頭が痛くなって……姫。貴方、翼を持っていませんでしたか? 天使の翼を」
「ええ、確かにあったけれど……もう無いの。無くなっちゃった。」
「ああ、そうなのですね……美しい翼だったのに。それは残念だ…」

ホメロスはそう言って名残惜しそうにエレナの背を撫でた。

「さて、日も登りましたし発ちましょう。今夜は宿が取れるといいですね。こんな野宿ではなく」
「そ、そうね」
「申し訳ありません。雑魚寝などさせて」
「い、いいの、そんなの!貴方が居てくれるなら、どこだっていいの、私は」
「ふ……ならば、良いのですが」

ホメロスは白いローブを、エレナは修道服のベールをそれぞれつける。
鬱蒼とした森林地帯はまだまだ続く。
一頭の犬と一頭の馬がそこを静かに進んでいく。

「静かね」
「そうですね。密林地帯ですから……およそ人が出入りするような場所でもありませんし。さて……そろそろ抜けますよ。ここを抜ければソルティアナ海岸に出るはずです。」
「ソルティコね」
「はい。あそこでバカンスをするのがささやかなストレス発散方法でな……あの町の酒場は海に面したオープンテラス故、夜の潮風に当たりながら1杯やるのもまた一興……隊の者も気に入ってましてね。よく連れてきていました」
「そうだったのね…」
「貴方とも1度来たようですね。夕陽を見て、食事をしたと書いてありました、手記に。それから……いや、今はやめておこう、この話は」

ああ、きっとあの恥ずかしい話の事ね。

エレナはそう、そっと思うのだった。






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