Barcarole of Prisoners

□Departure of Prisoners
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「ホメロス。述べた言葉に、偽りはないか」
「はい。神と賜った剣に誓って。全て真実でございます」
「お前は1度、私に旗を翻したか」
「そうです」
「ホメロスよ……お前ほどの男が何故。この場にはそう思う者も多くおる。答弁する気は、ないか」
「これ以上懺悔の時間など必要ありません。私が述べるべきことは全て述べたつもりです。あとは裁きを受けるのみ。」
「ふむ……。」

王は髭を触りながら考え込む。

「ホメロスよ。つまりお前はこのワシに旗を翻し、忠義を捨て、魔王に取り入り、この国を陥れたか」
「はい」
「では何故、今ここに戻ってきた。お前の忠義は今、どこにある」
「どこでもありません、王よ。仕えていた主である魔王は、勇者の手により倒れました。もう仕えるべき主はいません。故に…私の忠義は今、どこにもないのです。何故ここにと言えば……断罪されるため、でしょう」
「ホメロス」

王が剣を抜いた。

まさか、また斬られる…!?

エレナは立ち上がった。

「姫。安心なされい。この場で斬り殺すなど、法にのっとった処断では無い。……ホメロスよ」

王はその剣をホメロスにゆっくり向けて、首筋ギリギリのところで刃をとめた。

「お前はここで誓ったな、我がデルカダールの騎士であることを。我が国の将軍であることを」
「はい」
「誓いは破られた。故に、ホメロスよ……お前から、それらを剥奪する。これよりお前は、デルカダールの将軍でも、デルカダールの騎士でもない……その全て、今ここで、ワシに返上せよ。お前を、国外追放とする」
「拝命、承りました。王よ。貴方より賜りしその全て、今この場にて、全て返上致します。」
「うむ」

王は剣をしまい、フロア全体に向けて言う。

「皆の者、聞いたな。我が国の軍師ホメロス将軍は、今この場にて全てを返還した。故に、彼はこの時より、デルカダールの将に在らず。我が騎士にあらず。ここにいるのは、何も持たぬ、ホメロスだ。これをもってホメロスへの糾弾は終結とする。今後一切、そのことに関しては口にせぬこと。この者はもう、この国の者では無いのだから」

───会議は終わった。終わってすぐ、王はホメロスをこっそりと……あの食器棚の裏から、自分の部屋に来るように言った。

「ホメロスよ。守ってやれなくて、すまぬ。じゃが、あそこまで言えば……もう誰も、お前を責めることはできまい。国外追放とは言ったが……ホメロスよ。ほとぼりが冷めたら、いつでも帰ってくるがいい。お前はワシの……ワシの大事な息子なのだからな」
「王よ……もう十分です、罪人である私に、貴方を裏切った私に……構いません。二度と祖国の土を踏めなくても、当然の報いです、だから」
「ホメロス……ここに居ても、お前は肩身が狭いだけであろう。実はエレナ様からある提案があったのじゃ。そのためには、お前を将軍の任から解く必要があった…だからこそ、ああいう形にしたのだ」
「提案、とは?」
「ホメロスよ。姫と共に、贖罪の旅に出よ。この世界を巡り……人助けをしていくのだ。お前の罪を、一つ一つ償っていけ。自らの記憶を辿ると共に、な。お前は旅に出るのだ。ホメロスではない者として。お前にとって、記憶を探すと共に、罪を償うための旅に。」
「それが、姫様からの提案ですか?」
「実はもう1つ。そこに、姫様も共に行く。姫はユグノア王国復興に向け各国へと足を運ばねばならぬ。お前もどうせ世界中を旅するのだ、ならばお前と共に行った方が、何かと良かろう……お前は、そういう才に長けている。彼女を哀れだと口にするのなら、ホメロスよ。そうすることで、彼女を助けてやっては、くれんか?」
「……あの方がおっしゃるのなら、私はそれに従うのみです、王よ」
「うむ。ならば支度をして、たて。見送れぬのが残念だが……達者でな、ホメロス。お前はワシの大事な息子なのだ……それは変わらぬ。忘れるな」
「ありがたきお言葉です、王よ……」
「ホメロスよ。もっと近くに来てくれ。当分会えぬのだ、もっと顔をよく見せてくれ……」

ホメロスは王に歩みよる。王はあの日のように──ホメロスが母を亡くして帰ってきたあの日のように、優しく、けれど力強く、ホメロスを抱き締めた。

「気をつけていくのじゃぞ、ホメロス。我が息子よ……」
「行ってまいります…………父上」

ホメロスはここで少しだけ、涙した。




部屋に戻ったホメロスから事の次第を聞いたイレインは大号泣した。

「おいおい…」
「ひっぐ、ホメロスさまっ、俺っ、俺ずっとホメロスさまのっ、お部屋の番してますからっ、いづかっ、いづが帰っできでくだざい」
「ふ……100年後かもな」
「まぢまずがらぁ…!」
「ハハハ……そうか。なら好きにせよ」

にゃあ。
ホメロスの手元で、白猫が鳴いて、その手にすりすりと頬をすり付ける。

「お前も行くのか?」
「連れていくわよ、ホメロス」
「ああ、姫。そちらの準備はいいのですか?」
「ええ。もうリーフにのっけちゃった」
「ふ……準備が早いですね」
「私は知ってたもの。旅に行くの。だから、早めに準備してたのよ」
「そうでしたか……」

エレナは夜色の修道服を身にまとっていた。

「とてもユグノアの姫には見えないが」
「見えなくていいの。目立っちゃうでしょ? だから」
「そうですね……」

ホメロスは先程王から受け取った白いローブを身にまとい、フードを被った。

「行きましょうか、姫。どこから参りますか?」
「あなたが決めて。これは貴方の……記憶探しの旅でもあるのだから」
「ああ、そうだ、まだ礼を言ってなかった……姫、ありがとうございました。庇ってくれたことと…こんな形で、私に役割を与えてくださって」
「半分は私のわがままなの。お礼なら、許してくれた王様に言ってちょうだい」
「そうでしたか……王とは別れを済ませてしまいました。ですから…ならば出立しましょう。私の記憶の手がかりとなるのは、この手記ですから……そうですね、ならば初めは……」





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