Barcarole of Prisoners

□運命の分岐点
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「どいてグレイグ!どうして庇うの!どいて!ホメロスの仇!ここで討つの…!」
「姫様!落ち着いてくだされ、ホメロスは…!」
「違う!違うわ、ホメロスは……なら分かりやすく教えてあげるわよ、ここは聖竜様のお膝元。勝手な真似は、許さない。貴方の王は、ここの土を踏めるようなものではないってこと、ここで証明してあげるわよ!」

銀色の風が吹く。
グレイグは目を開けていられなくなってひるまざるを得なかった。

「聞け!お前に、私の歌が聴けると言うのなら…!この聖竜様のお膝元で!」

私は歌う。この36年の人生、ずっと共にあったあの歌を。

「それでも光は降り注ぐだろう
この歌が貴方を導くだろう」

城では無理だった。でもここなら。私たちの懐である、ここなら。効くはずだ。暴けるはずだ。今の私のチカラなら尚更。

王は頭を抱えて苦しみ始める。

「お、お父様…?」
「Se amartoloús anthrópous
Anápafsi ýpnou……」

ああ、ホメロス。ごめんなさい。

「おば様、待って、そんな感情で歌っちゃダメだ、おば様、だから翼が…待って、」
「あの人がいれば、それで良かったのに」

私の翼は片翼だけ、あの悪魔の翼──あの世界で、ホメロスが持っていた翼になっていた。

(何故だ…!)

どこかで、ホメロスの声が聞こえた気がした。
そう言う、ホメロスの声が。

しびれを切らした魔王は、王の身体を捨て姿を現す。

「リーフ!」
(承知した!)
「ちっ!まさか我が正体を見抜いているとは、忌々しい光の眷属め…!」
(させぬよ!)

魔王が放つ闇のオーラから、リーフの結界が私たちを守った。

「今の…!」
「おいおい、ホメロスの攻撃と同じじゃねえか?あれ」
「そうか…!」
「お前が、魔王ウルノーガ…!」
「そ、そんな、王よ……」
「フハハハ…!グレイグよ!今までご苦労であったな!」
「グレイグ!そこは危険よ、離れて!」

唸り声を上げて、グレイグと魔王の間に入ってきたのは黒い毛玉。

「ラム!サムは動けないけど、予定通りにいくわよ!」
「ええい、次から次へと忌々しい…!」
「不用意にここに立ち入ったのが仇になったわね。さあ、討たせてもらうわよ、私の大切な人たちを奪った罪…こんな事ぐらいで、贖えるだなんて思わないで頂戴……」

ああ、ホメロス。ホメロス。どこにいるの。ここにいるの? どうして私の背に、貴方の翼があるの?

「突き落としてあげる。あなたを、」
『果てしなき、地獄へ』

私の声に、ホメロスの声が重なった。

……ああ、ホメロス。可哀想なホメロス。きっとその怨嗟が、私の怨嗟と重なって、今一緒にいるのね。

「おば様……」
「ホメロス……ならば共に。地獄送りの死神になりましょう? レオン。勇者の剣を。ここで闇を払わなくちゃ。だから」

ラムはグレイグを勇者たちの近くへと運ぶ。サムは私のそばまで来て、唸っている。

仲間たちに見守られながら、勇者は勇者の剣を手にした。
その間、私たちは魔王を牽制する。
私はサムに回復呪文をかけた。

「サム。お前大丈夫なの?」
(はっ、はっ……僕でこのザマだ。ホメロス……痛かっただろうに)
「っ……!」
(ああ。ホメロス。そこにいるんだね。そこに)

サムは私を見上げながらそう言った。

……そう。やっぱりホメロスは、私とともに。

リーフは結界を織り成している。
勇者が勇者の剣を構えた。

「舞台は整ったわ。逃がさないわよ、魔王ウルノーガ」





ロウは己の娘の隣へ並んだ。

「ここで16年の因縁をつける!エレナよ、お前一人に背負わせはせんぞ」
「お父様……私たちから大切な人たちを奪った悪魔に、血の制裁を」
「エレナ、お主……」
「ロウさん。今はそっとしておいてあげて。」
「レオンや。お主、何か知っとるのか?」
「おば様は……ホメロスのこと、さ……すごく、好きだったんだよ」
「そうだったの……」

マルティナが、そう呟いた。

「すっげーな。天使と悪魔で片翼ずつって」
「ホーリーランス……お姉様、あの方が、」
「ええ。実際に見ることになるとはね。光の眷属を」
「光の眷属……エレナちゃんは、とても強いチカラを持っているのね。さっきの風といい、雰囲気が独特だわ」
「エレナ……強くなったのう……」
「さあ、皆。僕達もおば様に加わって、魔王を倒そう!」

勇者の言葉に仲間たち全員が頷く。

「……勇者よ」

グレイグが重く口を開く。

「俺も、共に戦わせて欲しい。こいつは、俺から友と家族を奪った張本人なのだからな!」

勇者は頷いた。

「……ありがとう。今までの非礼を詫びるのは、またにさせてくれ。今は」
「うん」

───聖域の力で縛りつけられた挙句、天馬の織り成した空間で魔力を削られた状態の魔王を、勇者と7人の仲間たち、そして天使とが揃えば、倒すことは不可能ではなかった。

烈しい戦いの末、勇者たちは魔王を倒した。






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