Barcarole of Prisoners

□過ぎ去りし時を求めて
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祈っている。そこで、勇者が会いたかった人が祈っていた。

「神よ。あの人はたった1人で何と戦っているのでしょう。彼は私には言ってくれません。私が頼りないから……ですからどうか、どうかお守りください。この世界で私のたった1人の騎士なのです。家族も故郷もなくした、私にとっては彼だけが……だからお願いします。彼を守って……」
「姫様……」
「グレイグ。こんな所まで、どうしたの? あら、レオンも一緒なのね? これはどういうことかしら」
「大樹が落ちる前の、おば様だね」
「大樹が落ちる? 何を言っているの? そんなことがあるわけないじゃないの」
「ああ、すみません、貴方に聞いておきたいことがあって……」
「なあに?」

エレナが首を傾げる。

「おば様、魔王ウルノーガってどこにいるか、知りませんか?」
「魔王? そんなこと…私の方が知りたいわよ…あら? お父様もいらっしゃるの?」
「エレナ……!」

幻だと分かっていながら、ロウはエレナに駆け寄りその手を握った。

「エレナ、エレナよ、会いたかったぞい」
「まあ、お父様ったら。それは私のセリフです。誰もいなくて……私世界でたった1人、天涯孤独になったと……そう、お父様。生きていらしたのですね……」
「おば様。ホメロスの事なんだけど、」
「あの人がなあに?」
「なんか、変わった感じとかありませんか?」
「特には……疲れてそうだけれど。心がささくれてるのよ、きっと……ちょっと癇癪起こしやすくはなってるけれど、ストレス溜まってるのよね、多分。貴方が逃げ回ってるから……いえ、いいのよ。逃げてちょうだい、どうか無事に。あら? グレイグ? …?」

エレナは混乱している。

「ああ、いいんです、よく似た人雇って番を、なんて……ハハハ」
「そっくりね。双子でもいたのかしら、グレイグ。そう言えば家族の話は聞いた事なかったけれど……それよりも、ストレス溜まってる、なんてレベルなんですか?」
「うーん……そう言われたら病的な感じもするけれど。意地っ張りだから、その辺はなんとも……」
「そうですよね…」

勇者は1度、礼拝堂を出た。

「あーあ。やっぱり大樹落ちた直後に聞いておけばよかったなあ」
「何を聞こうとしていたのだ?」
「おば様はいつから知ってたのかなって。僕はホメロスの真意を探りかねてるから……」
「真意?」
「おば様がホメロスに心酔した理由。彼奴がおば様をはめた可能性もあると思って」
「レオン様…!」
「たしかに。人の心を操るのうまそうだもんな。ずっとグレイグの事も騙してたんだ、それぐらいやりそうなもんだもんなあ」
「そんなことありません!そんな人が、身の危険を冒してまで、エレナ様をお守りするとは思えません!」
「それこそ策だったとしたら?」
「カミュ様…」
「彼奴、劇場型な性格してるだろ。あの魔城での、ベロニカのことだってそうだ……演出家なんだよ、その格好そのまま、道化師。」
「そうね、ホメロスちゃんは、役者としては優秀だろうとアタシも思うわ。あの時までずっと、裏で暗躍してきたのだから…」

マルティナは先程の玉座の間での会話を思い返す。

「そのためにてなずけたと言ってたわね。どちらが本音なのかしら……エレナ様に告げた言葉と、あそこで魔王に告げた言葉と」
「でも、最終的に、あれは魔王の機嫌を損ねた、ということですよね?」
「そのようじゃったな。まるでホメロスの態度が気に食わないからチカラで黙らせたという感じであった…」
「……あのあと、部屋でホメロスはずっと魘されていた。悲鳴をあげて飛び起きて。俺は……彼奴は姫様のことだけは……やはり、想っていたのだと思う。そうでなければ……姫様があまりにも……」

一同は黙り込んだ。

「いっそホメロスの記憶を辿った方がいいのかな、なら」
「見せてくれると思うか? あのホメロスが」
「これ、誰が何を見せるって決めてるんだろ?」
「確かに……」

うーん……。
一同は考え込む。

「……それこそ、大樹の導きなのかな。いつも、大樹の記憶を見るとき、これが見たい、と思って見たことは無いよね。カミュの記憶を見た時も……同じなのかも。大樹が勝手に決めるのかも。僕達が、今欲しい答えを得られらように、なら……この時間のおば様に会うことに、やっぱり意味があるはずだ。もう少しこの世界に関与せずに、流れを見守ってみよう」
「お前が言うならそうするさ、な?」

そう。この仲間達は、勇者について行くと決めた仲間だ。
勇者の決定を無理矢理覆すことはしない。

「ありがとう。なら、もう一度城に戻ろうかな……セーニャ。耳飾りどう?」
「うんともすんとも……エレナ様、同じものをしてましたね」
「そりゃあね。さっきも外すなって脅されてたし」
「レオン様…」
「ごめんよ、セーニャ。彼奴のした事……ちゃんと見極めるまでは、僕は。」
「……エレナ様は、許すのは自分だけでいいと仰いました。それが自分の役目だと。そうですね…許さないこと。それもまた、エレナ様の望みなのかもしれませんね…」

勇者達は城へ戻った。






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