Barcarole of Prisoners

□過ぎ去りし時を求めて
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「……やっぱり、おば様に確かめておかなくちゃ」

勇者はポツリ、そうこぼした。

「何をです?」
「過去に戻るなら……その前に、叔母さまにどうしても確認しておきたいことがあるんだ。セーニャ、グレイグ。あの場所、覚えてるよね。鏡のところ」
「ええ、覚えてますわ」
「ああ……もう一度、行ってみるか? 今度は皆で」

勇者は頷いた。

そうして、勇者一行は再びユグノアの森を訪れた。門番はいない。天馬もいない。

(もの好きだな、勇者よ。今更何の用だ?)
「はっ!耳飾りからリーフ様のお声が!」

セーニャは手のひらに耳飾りを載せた。

「単刀直入に言う。おば様に会いたい。」
(無茶を言うな。あれは使命を終えたのだ、ここにはいない)
「いつのおば様でもいいんだ。追憶の鏡なんでしょ?」
「レオン、一体何を」
「夢を見たんだ。追憶の鏡っていって、記憶や過去を辿ることができるんでしょ?」
「そうだったのか!? いや、しかし……俺が見たのはどう見ても未来であったが……」
「私もです……」
「あの時のは、確かにね。それだけじゃないんでしょ。どうなの、リーフ」
(……天啓か。あの子の最後の導きか。良かろう、勇者。そこまで言うのなら飛び込むといい。だが……何を見ても目を背けるなよ。全て、事実だ)
「うん。これって、みんないける?」
(ああ。皆で飛び込むといい。)
「巻き込んでいいかな、皆」

勇者の言葉に仲間たちは頷く。

「なら……いくよ!」

勇者に続いて、仲間たちは鏡のように見える水面へ飛び込んだ。
耳飾りが光を放ち、進むべき道を示す。

「まあなにこれ!銀河みたい!」
「不思議な空間ね……時をさかのぼっているのかしら」
「なんか、大樹の記憶見てる時と似てるな」
「確かにそうじゃな……」

勇者たちが降り立ったのは、デルカダール城だった。

カツカツと靴音が響く。
黄金色の髪が風になびいた。

「ホメロスだ」

ガッツリ鉢合わせたのに、ホメロスは気にもとめない様子で廊下を歩いていく──勇者たちをすり抜けて。

「僕らからは見えるけど、向こうからは見えないみたいだね」
「あ、グレイグ様です!」
「……少し、恥ずかしいな」

ホメロスはそこで足を止めて、グレイグと話を始める。
それからまっすぐ階段を上っていった。

「グレイグ。おば様の部屋は?」
「二階にある貴賓室だ。ホメロスもそこへ向かったのだろうか?」
「覚えてないの? さっきホメロスちゃん貴方と話してたじゃない」
「こんな光景はいつでもある。分からんさ……どの時かなど」
「そうよね。貴方とホメロスが話すことなんて日常茶飯事だものね」

勇者達はホメロスを追って2階へ。貴賓室に入ると、ホメロスはエレナとキスをしていて、勇者達はちょっと気まずくなった。

「目、目を背けちゃいけない……」
「やだもう、ホメロスちゃんったら激しいキスをするのね♡」
「ホメロス……」

グレイグは視線をそらした。

「エレナ……この城も、味方ばかりとは限らないからな」
「守ってくれるでしょう? 貴方が」
「ふ……そんなに頼りにされては。だが……その通りだよ、エレナ」

ホメロスはエレナの喉元にそっとキスをする。

「この声が、お前を守る武器となろう……歌え、エレナ。苦しくなったら、歌え」
「でもホメロス、最近変なのよ、前も言ったけれど…」
「どう変だと?」
「だから、声が出なくなったり、喉……苦しくなるのよ」
「…………。耳飾りは、外していないな?」
「ええ」
「外すなよ。絶対に」
「ホメロス。貴方何か知ってるの?」
「……聞くな。」
「知ってるんでしょう? 言って、ホメロス。何を知ってるの?」
「分かるのは……その耳飾りが、お前を悪夢から守るということだけ。それだけだ。」
「ホメロス、」
「もう黙れ。世の中には、知らない方がいいこともあるんだ」
「まあ、隠し事? つれないのね」
「そうではない……そうではなくて。いいか、エレナ。わざわざ落とし穴に落ちに行くバカがいるか? という話だ。知らないふりをしろ。無力なフリを……してくれ」
「え?」
「ええい、お喋りはここまでだ。眠らぬと言うなら黙らせるまで」
「っ……!」

ホメロスはエレナを押し倒した。
そこで光景は途切れる。

次に、王とホメロスが謁見の間で話している光景へ。

「ホメロスよ。分かっているだろうな。」
「ええ…」
「妙な真似をしてみろ。……あの娘は、屍になる」
「っ……!?」
「大切か。そんなにあの娘が大切か。ならば従え。我の言うままに動け。逆らうことあらば……見るも無残な姿にしてやる」
「私が忠誠を誓うは、貴方様ただ一人……二心など、ありはしません。どうかあの鳥の羽を奪わないで下さいませ……」
「随分と気に入ってしまったのだな、ホメロスよ。我の命ならなんでもきくか?」
「勿論でございます、王よ」
「ならば……今からちょっといって、あの娘の息の根を止めてこい」
「そのようなこと……!何のために……!」

悲痛な叫びが謁見の間に響き渡る。

「ホメロス様…」
「あれは脅威よ。何も知らない間に亡きものにしてしまえ。感づかれる前に始末したいのだ」
「お待ちください、王よ…!それだけは、それだけはご容赦下さい。私に出来ることなら何でも致しましょう、ですからどうかそれだけは…!」
「くっくっく……哀れなものだなホメロスよ。慈悲が欲しいか」
「王よ。どうか……どうかお願い致します、あの娘は私には素直です。私の言うことであれば背くことは致しません。そのために今まで手を尽くしてきたのですから……お許しください、王よ」
「そこまで言うなら……咎はお前が負え、ホメロス。それで許してやろう……」

ホメロスはそこで倒れた。
そこへ、グレイグがやってくる。

「この光景は…!思い出したぞ、そうだ、ホメロスが倒れていて……そうだったのか、ホメロス、お前はあの時……」
「なあ、なんで俺たちはホメロスの記憶を見せられてるんだ? 用があるのはレオンの叔母さんの方なんだろ?」
「おば様……これが、答えだったりするの?」
「あ、耳飾りがまた光っています!これは……城の外です、レオン様」
「行こう。なら、その光の刺す方に」

勇者たちは再び光に従って進んだ。光は、デルカダールの孤児院にあった礼拝堂へと続いていた。





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