Barcarole of Prisoners

□過ぎ去りし時を求めて
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カミュの言った通り、忘れられた塔はそこにあった。
神秘の歯車を嵌め込むと扉は開く。

勇者たちは歩みを進めた。
それを追うように、小さな黒い精霊が塔に入っていったことには、誰も気づかなかった。


最上階。そこには、時の番人を名乗る精霊がいた。

「…時の番人よ。この塔には失ったものを復活させるチカラを持つ光があると聞きました。私たちには蘇らせて欲しいかけがえのない仲間がいます。どうか、知っていることを教えてください。」

時の番人は語る……時のオーブのことを。

「しかし……貴方たちには本当に、失われた時を求める覚悟はありますか?」
「覚悟だと? どういうことだ」
「時のオーブとは、失われた時の化身が、遥か古よりつむぎ続けた時の結晶…」

その時のオーブを壊すことで、時空の流れが乱れ、全てが過去に巻きもどるのです。

時の番人は続ける。

「仲間を蘇らせたければ、世界のときを断ち切らなければならない。失われた時を求める……貴方たちがしようとしていることは、世界にとって大きな選択なのです。」
「お姉様を復活させるには、この世界ごと時を巻き戻すことになる…」
「世界ごと、過去に戻る……もしかすると、いや、しかし……もし、もしその話が本当だとしたら……」

大樹が落ちたあの日より前に戻り、ウルノーガの悪しき野望を食い止めることが出来るのではないか?

ロウの言葉に仲間たちが振り向く。

「そうすればベロニカだけじゃない…。あの日失われたロトゼタシアの全てを今度こそ救えるかもしれんぞい!」
「恐らく…今この時を紡いでいる1番新しい時のオーブを壊してしまえば…貴方たちが望む、世界が闇に覆われる直前に、戻ることもできるかもしれません」
「もし……世界の運命を分けたあの日に戻り、ウルノーガをこの手で止められるのなら……俺は喜んで過去に戻るぞ!」

グレイグの言葉に皆頷く。そこに、時の番人がある事実を突きつける。

過去に戻れるのは、勇者の力を持つレオンだけだという、事実を。

「ちょっと待てよ。過去に戻ったレオンは、またここに戻ってこられるんだろうな?」
「一度過去に戻れば、おそらく二度とこの世界には戻ってこられないでしょう。それに…」

壊れた時のオーブが暴走すれば、ねじ曲がった時空の渦に飲み込まれてしまうかもしれない。
時の渦に飲み込まれてしまったら、レオンは永遠に、時の狭間をさまようことになるでしょう。

時の番人が告げたのは、あまりにも残酷な現実だった。

「そんな…!」
「かけがえのない仲間と別れ、たった1人で過去に戻る。あなた自身もどうなるか分からない。……レオン。それでもあなたには、失われた時を求めて、過去に戻る覚悟がありますか?」

時の番人は、覚悟が決まったら祭壇へ進むように言った。
勇者は1度、塔の外へ出た。

「あんまりだ、そんなの……」
「カミュ」
「レオン……焦らなくていいぜ。こんなこと……そう簡単に、決められるかよ」
「そうです…!レオン様と離れ離れになって……レオン様自身もどうなるか分からないなんて……」

セーニャはふと、彼女の言葉を思い出した。

"私のワガママを通すのだから、当然の報いよ"

「ワガママを通すには……代償は、必要」
「ん? どうした、セーニャ。何か気になることでもあるのか?」

セーニャは袋からエレナの耳飾りを取り出した。

「エレナ様が、私に言ったんです。私、エレナ様が、ホメロス様にああすること、実は事前に聞いてたんです」
『えぇ!?』

勇者以外は驚いた。
セーニャはあの日、エレナとした会話を仲間たちに明かした。



"このチカラを捧げる代わりに、たった一つだけ願いを叶えられる。それがどんな願いでも。私はそれを使って、ホメロスを闇から解き放つ"
"解き放てば、ホメロス様と争わなくて済みますか?"
"いいえ。ホメロスに大人しくなってもらわないといけないし……何より、無理やり救済したってダメ。俺じゃグレイグと勇者には勝てないんだって思い知らせてからじゃないと。あんな夢、叶えちゃいけないの。絶対に後悔する。だって双頭の鷲なのに。私は嫌。そんな夢叶えられても、明るく生きてなんていけない。大切なのに、大好きなのに、禍根が残る。それはきっとホメロスにも。後悔以外何も残らない。そんな夢叶えたって……結局全て失って、絶望するだけ。だから……グレイグが、せめて俺の手でと言ってくれた。私は彼を信じる。彼がホメロスの夢を終わらせてくれるのなら……その終わりに、果てに、私は共に行く。"

引き返す道はない。私たちは、もう元には戻れない。分かっている。
グレイグには、居場所が出来た。使命が出来た。
道を踏み外したのは彼だ。もう、戻れないほどに。

"あの日に戻れないのなら…せめて私が共に。その全てを闇に捧げても、彼は私だけは捨てられなかった……だから。私も彼を見捨てない。だから願う。せめて……せめて魔としての死ではなく、人としての死を。生を終えた魂が、大樹へ還れるように"
"エレナ様…!それは、それは、つまり"
"もたないのよ、セーニャ。私に、もうそれだけのチカラは残っていない。私の全て……残りの生全て捧げて、やっと匹敵するのよ、その代償に……本来なら天使の力を返せばいいけど、返すほど、私にはもう魔力がない。ふふ。私だって、あの人のいない世界でどう生きていいかなんてわからない。どっちにしろ絶望なのよ。なら……せめてあの人と絶望に落ちてく。あの人がいてくれるなら……その先が絶望だとしても歩いて行けるから"

「優しい笑顔でした……エレナ様は言いました。この顔にさせられるのは、世界で1人、彼だけなのよって……そうだと思います、私も。」
「エレナ様が、そのようなことを……」
「ごめんなさい、グレイグ様。黙っていて」
「いや、それが姫様のご意志であったのなら……姫様。貴方は本当に……ホメロスの為に、全て」
「ホメロス。そんなに愛されていたのに、どうして引き返せなかったのかしら。どこかで」
「魔王ウルノーガは、その昔国の大臣に成り代わり国を内側から瓦解させたぐらいじゃ……ホメロスほどの男でも、その策を越えられなかったのかもしれんな。上には上がいるものじゃ」
「エレナ様は、再三、私の為にと言ってました。これは、憶測なのですけれど……ホメロス様はずっと、エレナ様を人質に取られていたのかもしれません」
「相手は魔王だ、エレナ様は天の眷属……やりかねんな、確かに。そうか、なのにホメロスはそれをたった1人で……」

尚更気づけなかったことが悔やまれるグレイグであった。






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