Barcarole of Prisoners

□過ぎ去りし時を求めて
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その後、勇者はロウと2人でユグノア城跡の国王両陛下の墓参りをしに行った。

「アーウィン、エレノア。また来たぞい」

ロウは白い花を供えた。

「世界が平和になってから、ヒマさえあればここに来てしまうんじゃ。さすがにもう花を置く場所がないのう…今日は、お主たちに報告があってな。悪しき魔王も倒したことじゃし……。そろそろ、このユグノア王国を復興させようと思っておる。まだまだ、時間も人手もかかるが……そうしたら、おぬしたちの墓ももう少し立派なものにしてやるぞい!」

ロウは、思いを馳せた。

「……16年か。長かった。本当に……」

涙ぐむ祖父の背中を、勇者はどこか悲しい面持ちで見つめていた。

「あの子もワシを置いていってしまったよ、アーウィン、エレノア。どうか迎えてやってくれ。あの子の傍には、もう1人おるかもしれんが……あの子は、その人が居ないとダメらしいのでな……許してやっておくれ。」

どんなに複雑だろうか。

勇者は祖父に同情した。

どんなに複雑だろう。
先立たれたということだけでも、ロウさんにとっては辛くて、悲しくて、苦しくて、なのに。
先立ってしまった理由は惨殺されたわけでも、病気になった訳でもなくて、自分から全てを奪った魔王の手先を、愛してしまって、1人に出来なくて、その後を追うためで。
止めることだってできたはずなのに、ロウさんはそれをしなかった。

「ロウさん」
「ん? なんじゃ、レオン」
「どうして、止めなかったの? エレナ叔母さまのこと」
「ほっほっほ……あの子も子どもではないからのう。親が決めつけるような歳でもないし…あの子もエレノアも頑固じゃからのう。言うたって聞かんわい。自分で決めたらの」

そうか。ロウさんが親だからこそ、分かることもあるのか。

勇者はそれ以上、深入りしないことにした。
ロウは、今にも泣き出しそうだったから。

「ハハハ…全く情けないのう。ここに来るといつも泣いてしまう。年は取りたくないものじゃな」

そう言って勇者を振り返った時には、ロウの瞳に涙はもうなかった。

「さらばだ、アーウィン、エレノア。また来るぞい」

ふと、背中を押すように吹いてた風に、レオンは2人を感じた。
振り返り足を止めた勇者に、ロウは歩みを促した。





グロッダの町の南、そこには謎の遺跡が出来ていた。

「中を調べてみましょう」

マルティナにそう促され、勇者たちは遺跡の探索を始めた。
セーニャは、壁画を見上げていた。

「不思議な壁画ですね。なんだか、見入ってしまいます……」

隣に来た勇者にセーニャはそう告げる。
少し遅れてやってきた仲間たち。
ロウは本を手にしていた。

「神の民が書いた書物を見つけたんじゃ。そこにはこう書いておる……」

"ロトゼタシアの大地より生まれし
悠久の時間の流れを紡ぐ精霊。
その名は、失われた時の化身"

「失われた時の化身……この壁画にあるのがそうなのだろうか?」

グレイグは壁画を見上げながら言った。

"神の民の伝承いわく……。
失われた時の化身が守りしは
刻限を司る神聖なる光
その光 かがやき燃ゆる時
悠久の彼方に失われしものが
大いなる復活をはたさん"

ロウは、その書を読み上げ続けた。

「復活って…もしかして、その光には失ったものを蘇らせるチカラがあるって事かしら」

ここでマルティナがあることに気づく。

「それが本当なら、彼女も……!思い出して。私たちには心の底から会いたい、大切な仲間がいるじゃない!」

仲間たちは、声を揃えてその名を呼ぶ。
ベロニカ!と。

「お姉様が……生き返る?」
「ちょっとロウちゃん!その光のチカラについて、もっと詳しく書かれてないの!?」

ロウはページをめくった。

"刻限を司る神聖なる光
忘却の塔にて静かに輝けり
いにしえより神の民が守りし
神秘の歯車 手に入れし時
失われた時の化身が集う
忘却の塔を目指すべし"

本には、そう書かれてあった。

「神秘の歯車……それが、お姉様を蘇らせる手がかり……」
「少しでも希望があるなら、絶対それに賭けてみるべきだ。オレはそうして運命が変わったぜ」

カミュが、セーニャの背中を押した。

「たとえ僅かな希望でも、もう一度お姉様に会えるのなら…私はその希望に賭けてみたいです!」

セーニャの言葉に皆が頷いた。

「だけど…肝心の神秘の歯車はいったいどこにあるのかしらねえ」
「神の民が守りし、神秘の歯車……古文書にはそう書かれてあったのう……そしてあの岩壁の穴……」

壁画には、歯車のような凹みがある。

「もしすると、神秘の歯車はこの場所の近くにあるのかもしれん」

カミュはふと、まだ道があることに気がついた。

「何か手がかりがあるかもしれない。行ってみようぜ!」

果たして、その先に歯車は落ちていた。勇者はそれを拾った。

「まあ、神秘の歯車を見つけたのね!? さすがはレオンちゃん! グッジョブよ!」
「神秘の歯車手に入れし時、失われた時の化身が集う忘却の塔を目指すべし、か…」
「あとは失われた時の化身とやらが集うという、塔を見つけろということか。なんとも雲を掴むような話だな…」

勇者はここでふと、歩く白い精霊……ヨッチを見つけた。
何も無いところを見つめる勇者の様子に、シルビアは首を傾げる。

「どうしたの、レオンちゃん」
「もしかしたらお前、何か心当たりがあるんじゃないか? 実は、オレも気になるところがあってさ。命の大樹の北にさびれた塔があるのを思い出したんだ。もしも他に宛がなかったら、ケトスに乗ってそこに行ってみようぜ!なにか新しい発見があるかもしれねえからな!」
「カミュ……多分、大当たりだと思うよ」
「ん?そうか?何で?」
「ふふん。勇者の勘」

カミュは笑った。

「ふっは。勇者様の勘か。宛に出来そうだな。じゃあ向かうとするか。その塔に、な」

勇者は天空のフルートを奏で、ケトスを呼んだ。





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