『夢より儚い夢の世界』―黒執事長編夢―
□その主人公、《菖蒲》
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とある朝、ファントムファイヴ家の当主の部屋に紅茶の良い香りが漂う。
「坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ」
『早く起きないと私が紅茶横取りしますよ坊ちゃん?』
「…名無しさん様は黙りなさい。
本日の朝食は『ポーチドサラダとミントサラダだそうですよ、付け合わせはトースト、スコーンとカンパーニュのどれにします?』…名無しさん様、私のセリフを盗らないで頂けませんか?」
「ふぁ〜…スコーン。
…どうしたんだ名無しさん、苛々してるようだが…」
『理由はセバスチャンさんがよーくご存知です』
にこにこ笑う名無しさんに、何か薄ら寒い物を感じたシエルは深くは聞くまいと話題を逸らした。
「この香り…今日はセイロンか」
『わぁ、流石は坊ちゃん』
「…本日はロイヤル・ドルトンのものを」
セバスチャンも突っ込んで問い質すのは辞めたようだ。
『ティーセットはウェッジウッドでしたっけ?』
「蒼白のものでご用意致しております」
「今日の予定は?」
予定を聞くシエルにセバスチャンはシエルのタイを結びながら淡々と本日の予定を告げた。