蝋人形の館

□運命の足音
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幾つものお酒の瓶や缶が転がるキッチンで、焼けたハンバーグを白いお皿にのせ、それにソースをまんべんなくかけるとニンジンやコーンをトッピングしていく。


反対側のテーブルでは、黙ってそれを見つめる物静かな女児がいた。
彼女は女が産んだ双子のうちの妹だ。
妹はユキといい、子どもにしては奇妙なほど手の掛からない子だった。
泣き喚いたり駄々をこねたりしない物分かりのいい妹を、母のトレアは心底可愛がった。


トレアが作ったハンバーグを食べ終えてもおかわりをねだる事すらなく、ただ黙ってフォークを置く。
幼児がいることなど御構い無しにタバコを吹かすトレアはそれを見て、微笑むと優しく頭を撫でる。





「本当にお利口さんね。おかわりする?」




彼女が言い終える前に、部屋の向こうから男の罵声が聞こえてきた。
間もなく、父親に抱き上げられ現れた子どもはユキの姉である。
彼女らは同じ顔をした一卵性の双子であったが、両親からの扱いは全くと言っていいほど正反対だった。
姉のユイは幼児ながらも父親の仕事の実験台にされ、その度に嫌がっては両親特に父親から疎まれていた。


父親が押さえつけ、ユキと同じテーブルつきの小さな椅子に座らせようとする。
ユイは泣きそうになるも、必死に涙を堪えて父親にされるがままだった。


父親の罵声に苛立ちをあらわにするトレアは、椅子に付いているテーブルを取ると夫と一緒にユイを小さな椅子に無理やり座らせ、ベルトで手脚を固定した。
ユイの脚とは対称的に、大人しいユキの脚は行儀良く椅子の下の足掛けに置かれていた。


妹みたいに少しは利口になれ、この役ただず!
と罵倒しながら、父親はベルトの上からさらにテープでユイの小さな手脚を固定する。
それが凄く怖いことに思えたユイは、少しの抵抗をして両手両足を動かした。
しかし、思ったより激しく動かしてしまい、手首と脚首には赤く血が滲んでいた。
悪足掻きをしてしまったため、彼女は恐る恐る母親の顔を見る。


「あんたが使えないからお父さんが怒るんだよ!
…はぁ、子供はユキだけで十分だ。」


そう言われた時、ユイは顔を下にさげ出来るだけ声を押し殺して泣いた。












その光景を見ていて、両親に殺意の篭った視線をユキが送っている事など3人は知らなかった。
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