君の見る景色

□Act.3-1 発端
1ページ/1ページ

穏やかな陽の光が瞼に触れる午後。

僕は表の通りを歩いていた。
ミノヒョンは、このところアルバイトが忙しい。
お父さんは、十分に2人で暮らしていけるように色々と助けてくれている。
だけどミノヒョンには、どうして博士がここまでしてくれるのかわからないとゆう気持ちがあるようだった。
いつか恩返しがしたいのだと、一生懸命働いている。

確かに。
僕はどうして作られたのだろう?
なんのために。
何ができるわけでもないのに。
考えてみても、アンドロイドの僕にはよくわからなかった。
ただ、ミノヒョンと一緒にいるようにと、お父さんはいつも口癖のように言っていた。
それが僕の役割。
それだけなんだろうか?


それで僕は最近、1人の時間が増えていて。
こうして通りをぶらぶらしていた。
相変わらず町の人は優しい。
寂しくはない。
ミノヒョンは2人でいるときはいつだって優しいから。



「君、テミンくんだよね?」
ふいに声をかけられる。
「…?」
振り返ると、ミノヒョンと同じくらいの歳の男性がにこにことした笑顔でこちらを見ていた。
「わぁ、噂どおりにきれいだね」
ーーきれい。
その言葉は、僕がこの世界に目覚めてから何度も聞いた。
だけど、ミノヒョンが僕に向けて口にする「きれい」の、甘い心地よさやくすぐったい響きは他の誰からも感じたことはない。
いつも通りただの言葉として受け取る。
「…あなたは?」
「僕はミノの友達だよ。何度か会ったことない?」
「…友達」
記憶を辿る。
ミノヒョンの、友達。
そういえば何度か、話しているのを見かけたことがある気がする。
「よかったら少し話さない?君のこと前から知りたいって思ってたんだ」
その彼は、人懐こい笑顔で言った。
「…でも」
あまり目立たないようにと言っていたお父さんの言葉が頭によぎる。
「大丈夫だよ。自分がいない間、君を見かけたらよろしくってミノから言われてるんだ」
「ヒョンに?」
「うん。君のこと1人にさせて心配してたから。そうだ。暇なら君もアルバイトでもしてみたら?僕、いくつか紹介できるよ」
アルバイト。
ミノヒョンの言う「お金をもらうために働くこと」かな?
僕にも何かできることがあるのだろうか。
「僕、働けるの?お金もらえるの?」
「うん、もちろん」
その人はくすくす、と可笑しそうに頷いた。


いつも太陽みたいに笑うヒョン。
側にいるだけで胸が温かくなる。
けれど、時々ふとどこか遠くを見つめるその瞳に、何も映っていないことを僕は気づいてた。
悲しげなその横顔を、僕はただ見つめているだけ。
ヒョンが何も言わないから、僕には何も聞けない。
こんなとき、気の利いたことでも言えたらいいのに。
うまくヒョンの心を知れたらいいのに。
本当の人間なら、もっと上手にそうゆうことができるのかな?

僕はいつも考えていた。
ミノヒョンが少しでも笑ってくれる方法を。
その憂いを含んだ、僕の知らない素顔を見なくて済むように。
僕も人間らしく働いたら、それで二人で一緒に「恩返し」ができるのかな。
そうしたらヒョンは、喜んでくれる?

僕は弾む心をおさえて、友達だという彼についていった。


次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ