Already.

□一歩
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「テミナ。起きて」
シーツにうずまるテミナの横に腰掛けて、そっと触れる。
「んんー……」
「終わったよ?」
「ん…まって……」
一度眠るとなかなか起きないのは知っている。
やれやれ。
俺はテミナの隣に体を横たえた。
狭い。
このベッドはセミダブルだぞ?男2人で寝るものじゃないだろう?
お構い無しの君は、薄いシャツ一枚で寝息を立てている。
そこから白い素肌が覗いていた。

俺は、テミナの頭に顔をうずめた。
風呂上がりだろうか、ほのかにシャンプーの香りがするけれど。
女のような甘ったるさを含まない、混じり気のない、俺を落ち着かせるにおい。
香りに敏感な俺の、唯一好きな、人の香り。
だからこれは、別に珍しいことじゃない。
髪から顔を離すと、目の前にあどけない寝顔があった。
長い睫毛に、すっと通った鼻筋。ぽってりとした唇。
俺はこの顔が好きだ。
そっと頬に触れた。
俺たちはいつもよくお互いを触るし、別にこれも珍しいことじゃない。
俺たちの間におかしなことなんて、何一つ、ない。
一歩、俺がこの場所から動かなければ。
君がこの想いを知ることは、ないはずなのだから。


それから、寝ているテミナの上に跨って、見下ろしてみた。
一緒に寝たことは何度もあったけど、こんな風に君を見たことは、初めてだろうか。
…知らなくていいと、俺が願っていたはずなのに。
一度湧き上がったドロドロとした感情は、止められなかった。
俺はそのまま、静かに眠るテミナに唇を合わせた。
そっと重ねるだけの、短いキス。
「……」
もう一度。
薄く開いた唇をなぞり、感触を確かめるようにゆっくりと口付けた。
顔をあげると、寝ていたはずのテミナが静かにこちらを見つめていた。
「…いつから起きてたの?」
「最初から」
「…だったら、抵抗しないの?」
「…ヒョン。…僕、ミノヒョンと…」
「知ってる」
「……」
俺を映す瞳が微かに揺れているのがわかる。
まだ、引き返せるのに。

そのまま、テミナの薄いシャツの中へ手を滑らせた。
「…っ」
「…ほんとに抵抗しないの?」
「………」
「もうやめないよ?」
テミナは、それ以上何も言わなかった。
…考えていることは、なんとなくわかった。
でも、俺はもうそれ以上を測るのをやめた。
今、目の前にいる君を、どうしても俺の中に閉じ込めてしまいたい。
この場所から一歩も動けずにいた自分を、早く解放してやりたくて。



「はぁっ…はぁっ…」
互いの汗と吐息が絡んで、湿度の高くなったベッドの上。
俺の腕の中でテミナが荒く息をする。
本当は言葉なんかじゃ全然足りない。
俺の醜い欲望や嫉妬も恋慕の情も、君に全部全部、深く刻みつけて。
優しくなんて、したくなかった。
大切だから、この手で壊してしまいたかった。
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