仕返しの仕返し

□taemin side
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ーー僕の誕生日を覚えていないと、ヒョンは言った。
それもラジオの収録の場で、淡々と言ってのけた。
あちこちのパスワードにまで使っているはずの、僕の誕生日を。

原因はわかってる。
きっとヒョンは、この間のことを根に持っている。
約束した夜、僕が一緒にいられなかったから。
…あの日、親友に呼び出されて少しだけならと相談に付き合ったけれど、想像以上に思い悩む彼を放っておけなかった。
たまたま僕は珍しく翌日のスケジュールが午後からだった。
ーーだから、ヒョンと約束をしていたのだけれど。
それでとことん付き合うことに決めた。数少ない大事な友を、無下にはできない。
『今日は帰れない、ごめん』
ミノヒョンにメールを入れる。
『わかった』
間も無く短い返信が来る。
…それだけ?
いつものことだが、ヒョンは何も問いただしてこない。
怒ってもこない。
今、何を考えているのだろう。

翌朝、内心少し緊張しながら宿舎に帰った。
さすがにヒョンは怒っているだろうか?
恋人よりも友人を優先させたのだから。
それは期待にも似た感情で。
「…ただいま」
「おかえり」
「………」
「………」
僕は次の言葉を待ったけれど…ヒョンは何も言わなかった。
いつもと変わらない態度。
…なんだ、やっぱり。
怒ったりしないんだ。
気にならない?僕が何をしていたか。誰といたのか。
いたたまれなくなって、僕は逃げるように自室へとひきあげたのだった。


それからこのラジオの一件だ。
僕は苛立ちと悲しさと、ぐちゃぐちゃした気持ちでいた。
口を開けば誰かに八つ当たりしてしまいそうで、とにかく早く家に帰りたかった。
仕返しのつもり?
何も言わなかったくせに。
それとも僕のことが嫌いになったから?
ヒョンの考えていることが、もう全然わからない。

キボミヒョンが出かけたのを見計らって、部屋へ向かう。
気持ち程度のノックをしてから中に入ると、ヒョンはベッドに横たわっていた。
僕に気づくと驚いた様子で体を起こす。
…ミノヒョン。
柔らかな髪。形の良い唇。長い手足。
触れたい。触れられたい。今すぐに。
そんな感情が沸き起こるけれど、できるだけ冷静に近づいた。
「テミナ…」
「この間の仕返しなの?」
何か言われる前に、僕からそう口火を切る。
ヒョンの気まずそうな表情を見ていると、やはりそうらしい。
だったら、どうしてーー
そう問いかけようとしたけれど…ぐっと飲み込んで、僕はヒョンのシャツの胸元に触れた。
だったらどうして、怒らなかったの?
僕のこと、本当に好き?
それを聞いてしまったら、僕だちはどうなるんだろう。
言葉の代わりにヒョンの上に覆いかぶさった。
いつもとは景色が反対だ。
見上げる瞳には、僕が映っている。
「許さないから」
もっと不安そうな顔を見せてよ。
もっと僕が必要だって言ってよ。
僕から離れていったら、許さないから。
ヒョンの顔が、快感と羞恥の狭間で揺れている。
胸の奥で燻っていた小さな征服欲が、今僕を支配していた。


「どうだった?」
体を投げ出して荒く息をするヒョンに、わざとふざけた言葉を投げかけた。
返事はない。
僕は今、最低だろうか。
ーーその瞬間、一気に視線が反転した。
気づくと僕はミノヒョンに見下ろされていた。
いつもの、景色。
「…怒ったの?」
「とっくに怒ってる」
そして絞り出すようにヒョンが言う。
「俺だけがテミナを好きなのか…?」
それは、僕が呑み込んだ言葉たちと、全く同じものだった。
本当はもっとそばにいたい。
もっともっともっと、誰よりも。
そんな焦燥やジレンマを、互いに押し込めていた。
…もう何年一緒にいるんだろう。
僕を見下ろすヒョンの顔は、とても不安気で情けなくて、愛おしかった。
きっと僕も、同じ顔をしているはずだ。
…なんだ、僕たち、似た者同士だ。
だんだん可笑しくなってくる。
「僕の誕生日は?」
「…7月18日」
僕がまっすぐ見つめると、ヒョンはいつだってまっすぐに答えてくれる。
もっと早くこうしていればよかったのに。
「僕たち、お互い様だよ」
…やっと、素直になれる気がした。


大好きなヒョンのあたたかい手が、僕の肌をゆっくりと溶かしていく。
もっと深く深く奥まで、繋がって。
独りよがりな先ほどの行為とは全然違う。
互いの熱が混ざり合っていく。
「ヒョン、好き…」

何度でも何度でも、遠回りしたって。
僕の不器用さがあなたを困らせたとしても。
それでも。
ーー僕はもう、君だけのものだよ。
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