君の見る景色

□Act.3-0 背反
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僕には、家族がない。

正確には、家族の中に、僕はいない。

小さな頃に母親が病気で死んだ。
それから間もなく新しい母親がきて、父は新しい家族を築いた。
その中に、僕は必要じゃなかった。

死んだ母親にそっくりな僕を、新しい母は嫌った。
生まれつきの栗色がかった髪に、長い睫毛と黒目がちの瞳。
生前の母はいつも言っていた。
「あなたはわたしの写し鏡ね」

だけどこんな容姿を、近所に住む子供たちは女みたいだといつもからかった。
父親は新しい家族に夢中で、僕のことを見てくれようとはしなかった。
僕はいつも一人だった。


母親に似た自分の顔が姿が、嫌い。
親にも好奇の目にも立ち向かえなかった自分が、嫌い。
ーー僕は自分が、大嫌い。


博士はいつも、何も聞かずに僕を研究室へ入れてくれた。
母に折檻された日も、家から追い出された日も、近所の子供たちにいじめられた日も。
いつでも穏やかに僕を受け入れてくれた。
博士が何も聞かないから、僕も何もなかったみたいに笑っていられた。

そして博士は、僕が嫌いな僕に、価値を与えてくれた。
博士のアンドロイドに、僕の体の様々な部分の細胞を移植した。
その小さな小さな欠片がどんどん分裂して大きくなって、ヒトの形ができていく。
僕とゆう何の価値もない存在から、一つの特別な存在が生まれる。
その博士の行為は、僕にはとても神聖なものに見えた。


「ーーミノヒョン」
僕とどことなくよく似た、だけど僕とはまるで違う特別な特別な、神様からの贈り物が、僕の横にいる。
「ミノヒョン、どうしたの?」
二人でまどろむベッドの上。
夢うつつにぼんやりと記憶を辿っていた僕の体に、テミンが猫みたいにまとわりつきながらこちらを見上げた。
こうゆう僕の変化に、テミンはよく気がつく。
アンドロイドなのに。
いや、アンドロイドだからかな。
本当によくできてる。
人間より人間らしいみたい。
「ん?なんでもないよ」
優しく微笑んでから、その頭を撫でてやる。
テミンは本当に猫みたいに目を細めて、気持ちよさそうに僕に身を委ねた。
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