君の見る景色

□Act.2-1 特別
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それから僕らは、町外れの小さな家にやってきた。
博士が用意してくれた、これからテミンの家になるところ。

鍵を開けると、白い壁にシンプルな木目の家具が置かれた、簡素だけれど落ち着いた部屋になっていた。
「これからここで暮らすんだよ」
「はい」
「そんな喋り方しなくていいよ、僕は博士じゃない」
「…わかりました…わかった…、わかった」
一言ずつ確かめるように言葉にするテミンが、小さな子供みたいでかわいく思えた。
「うん、そうそう合ってるよ」
僕はくすくすと笑いながら頷いた。

不思議そうにぐるりと部屋を見渡しているテミンのブルーグレーの髪と白い肌が、カーテンからこぼれる日の光に透けている。
なんだかこのまま消えてしまいそうに思えて、僕は無意識にテミンの頬に触れた。
陶器のような白い肌は、手と同じで少しひやりとしていた。
「ミノヒョン?」
「…おまえは不思議だね」
「…?」
「ここにいるのにいないみたいだ。僕とは違うところにいるみたい」
テミンは、きょとんとした顔で僕を見つめてから、自分の手をそっと僕の手に重ねた。
「テミン…?」
「でも、触れられる。僕はここにいるから」
「え…」
思いがけない言葉に、一瞬胸が詰まった。
テミンの表情からは特に感情は読み取れなかったけれど、重ねられた手は確かにここにあった。
「そっか…うん、そうだね」
きっと意味などなくて。
そうゆうヒト特有の複雑なものはなくて、ただあるがままに言ったんだろう。
それでもテミンの言葉は、僕の心にすとんと落ちてきた。
「やっぱりテミンは特別だね」
「特別…」
「そう、特別」
「…うん」
テミンが、ふいに目を細めて笑った。
とても嬉しそうに。
「…!」
笑った顔をたった今初めて見た。
こんな風に笑えるんだ。
とてもきれいで穏やかなその笑顔は、どこかオンユ博士に似ている気がした。

このきれいな笑顔を、この嘘みたいに不思議で特別な存在を、僕は誰にも触れられたくないと思った。
「…僕と一緒に、暮らす…?」
思わず口をついて出た言葉。
自分でも驚いた。
けれどテミンはそれを聞くと、迷いも戸惑いもなく頷いた。
「うん。ミノヒョンと、暮らす」
そしてまたそのきれいな笑顔を僕に向けた。

こうして僕たちは、その小さな家で二人で暮らすことになった。
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