君の見る景色

□Act.1-3 創造
1ページ/1ページ

僕は今、この手で神様の真似事をして、特別なものを作ろうとしている。

名は「テミン」
ブルーグレーの髪に色素の薄い黒い瞳。
透けるような白い肌に、華奢な手足。
僕が作っているのは、限りなくヒトに近い、アンドロイドだ。


「ねぇ博士、経過はどう?」
顕微鏡を覗く僕を無邪気に横から見上げる少年、ミノ。
彼は僕の家の隣に住んでいて、小さな頃からしょっちゅう研究室へ遊びにきていた。
底抜けに明るくて、やんちゃで、とにかく子供らしい子供だった。
「うん、いい感じだよ。あと少しだから楽しみにしていて」
僕は彼に微笑んだ。


だけど本当は。
彼の孤独を知っていた。
彼からは話さないし、僕が聞くこともなかったけれど。
口には出さなくとも、いつもどこか遠い目で人の温もりや優しさを求めていた。
僕は誰よりも君を見ていたから、それを知っていた。

僕が己の命の期限を知らされたのは、数年前。
元々身寄りもなく天涯孤独の僕は、この世からいなくなる前に、彼に何かを残してやりたいと思ったんだ。
僕がいなくても笑っていられるように。
1人だと嘆き悲しむことがないように。

だから、彼の皮膚から細胞を少しずつ採取して、そのアンドロイドに移植して培養した。
髪の毛、肌、爪、唾液、血液。
そうして神様の真似事を始めた。
きっと僕には天罰が下るだろう。
この世からいなくなった後でも。
それでも構わない。

ミノはとてもきれいな少年だ。
きっと「それ」もきれいなものになる。
君の、唯一無二の存在になるだろう。
どうか僕が去った後も悲しまないで。
「それ」と共に生きて。
僕の、代わりにーー


さぁ、ついに完成した。
僕の人生の最高傑作。
最初で最後の罪。
だけれど君の、救いとなりますように。


「テミン」
目を覚ました「それ」に、名前を呼ぶ。
創造主である僕から、命を吹き込む。
どこまでも神の真似事をする自分に、我ながら呆れる。
「オンユ…博士」
「これからはお父さんと呼びなさい」
「…はい、お父さん」
2人に僕の罪が及ぶことがないように。
おまえがヒトとして生きていくために。
「良い子だ」
とてもきれいな我が子。
ミノとよく似ているようでどこか違う、美しい姿。


「博士!」
勢いよく研究室の扉が開いた。
期待に目を輝かせたミノが飛び込んでくる。
君への最初で最後のプレゼント。
テミンをどうか頼んだよ。
ミノをどうかどうか頼んだよ。

2人が手を引いて研究室を出て行く背中を、僕はずっとずっと、いつまでも見つめていた。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ