Already.

□Pretty boy
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「ヒョン〜〜〜」
自室で作業をしていると、いつものまったりとした声とともに、彼が顔を覗かせた。
「ヒョン、曲どう?」
「ん〜〜ほとんど書けたよ」
「えっほんと?!」
キラキラした目をしながら、俺に駆け寄るテミナ。
こうゆう表情をするときのテミナは本当に可愛くて、俺は自然と頬が緩んでしまう。
天性のものなのだろうか。
「見せて見せて!」
デスクに座る俺の後ろから、何の躊躇いもなく腕を回して、肩越しに身を乗り出してくる。
そのテミナの勢いがおかしくて、少しからかうことにした。
「でもねテミナ。ちょっと我ながら良い曲ができすぎちゃったから…自分で歌おうかと思って」
「…へ?!」
するりと腕を解くと、テミナから間の抜けた声が出た。
「何言ってんのヒョン!僕にくれるって言ったじゃん!」
振り返ると、さっきと打って変わってむくれた顔。
本当に表情がコロコロ変わるやつだな。
テミナをからかうのは楽しくて仕方ない。
「いやーこれはやっぱり自分で歌うべきかなって思って」
俺はいかにもな表情を作って続けた。
するとテミナは、思いっきり口を尖らせてから、後ろにあるベッドへ飛び込んだ。
「僕、くれるまでここを出て行かないからね!!」
「はぁっ?」
突然の籠城が始まった。

「おいテミナ、明日早いんだから」
「いーやーだ!出て行かないってば!約束したんだからねヒョン!!」
布団をかぶって駄々をこねるなんて、まさに子供と同じ。
冗談だと打ち明けようかと思ったけれど、そんなテミナが可愛くて、なんだかもったいない気がした。
あと少しこのままにしておくか。
デスクに戻り、やり残した作業を片付けることにした。
「わかったよ、とりあえずあと少しで作業終わるから待って」
「僕は本気だからねっ?」
「はいはい」
全く。思わず笑みがこぼれてしまう。
やがて静かになった部屋に、パソコンのキーボードを叩く音だけが響く。
一度始めるとすぐに没頭しまう俺の癖。

「…テミナ?」
…やけに静かだな。
俺は作業にメドをつけて、パソコンを閉じた。
集中しすぎたかな。
ベッドを振り返ると、スマホをいじっていたはずのテミナが布団にうもれている。
「寝ちゃったの?」
近寄ると、やはりすやすやと寝息を立てている。
次のアルバムの準備で忙しいのだから、無理もない。
寝顔は本当にあの時から、全く変わらないな。
顔にかかった髪をよける。


テミナ。
俺がどんな気持ちでおまえに曲を、詩を書いているかわかる?

1人で歩き出した君。
もうかわいいだけじゃない。
ヒョン達にくっついてるだけの末っ子じゃない。
1人の男として色んなものを見て、色んなものを知る君に。
もう俺が守らなくても良いんだろう。
君の周りにはたくさんの人がいるのだから。
それらがどんなに君を持て囃しても。
どんなに純真で、綺麗かと書き立てたとしても。
それでも、俺は君の一部として君の中にありたい。
そして俺だけが知っている君を、このまま俺の中に置いておきたい。

重いかな?
けれど、俺はこんな方法しか知らないから、それを言葉にして君に贈ったんだ。
このままずっと、俺の想いなんて、わからなくていい。
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