聖花陽学園の日常

□二章 10話
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「ええーーーっっ、なんで行っちゃダメなんだよーーッ!!!!」

あの東の森誘拐騒動の翌日のこと、
ある男の叫び声が寮に響いていた。



朝…いや。もうそれは朝とは口が曲がっても言えない夕方のことだ。

昨日の一件から帰ってきてずっと寝ていた銀時がやっと目を開けた。
霞む目をこすりながら銀時はとりあえず寝巻きから制服へと着替えたところ、目の前にぬっ、と大きな人影が現れる。

土方「やっと起きたか。」

銀時「っ、ああ、土方。
おはよー」

いきなり現れた影の正体は土方であった。まあ、土方とは同室だし、特に驚くことはない。

みると、床には薄い布団が敷いてあった。部屋にベッドは2つ。もともとここは土方と沖田の2人部屋だった。

そこに俺も入れてもらうことになり、とりあえず布団をしいた、らしいのだが…。…なぜか土方が俺にベッドを譲り、そしたら沖田も譲るといいだして、結局ジャンケンを提案した沖田が負け、今に落ちついてしまっている。

まぁ、俺はその時ぐっすりお休み中だったのでそのやりとりを全く見ていないけれど。

後から入ったくせにベッドを使わせてもらうなんて罪悪感がすごいというのに、土方は聞く耳を全く持ってくれないので、もう諦めた。

土方「…?
なにぼーっとしてんだ」


銀時「あ、いや、…別に。」


土方「…まぁいい。…お前に言っておくことがある」

急に呆れたような顔から改まった土方に、心なしか俺の顔も引き締まる。多分。


土方「…東の森に行くのは禁止だ」

…は?

銀時「っ、な───────!」

冒頭の叫びが寮内をこだまする。
何考えてんだ土方!
昨日のこと忘れたのかよ!

そのタイミングで、自室の扉が開かれた。

沖田「銀時さん、いったいどうしたんですかい?!」

ばぁんっ、と扉は大きな音を立て、沖田はケープを大きく翻しながら急ぎ足で入ってくる。

土方「げ、総悟…」

沖田「…土方さんが銀時さんといじめてたんですかぃ?」

土方「違げぇ!あのな…」

かくかくしかじかと、土方が神威関連のことを全て説明する。

その間も、俺は土方の発言に納得できずにいた。

しばらくすると沖田がなんとなく状況を把握する。

沖田「…旦那。そいつ、魔物ですぜ?
…本当に会いたいんですかぃ?」

沖田は、いつになく真剣な、まっすぐな目でこちらを見る。
なんとなく、俺はここで適当に答えてはいけないと思った。

銀時「魔物とか、なんだか、よく分かんねぇ。でもさ、…あいつは悪い奴じゃないと思う。友達にも、なったしな」

笑って、そう伝えた。
変に正義感ぶったこととか、正論みたいなことは言いたくなかった。

…まぁ、今言ったのは曖昧すぎるかな、とも思うけど。

沖田「…っ、
…ははっ、そうですかぃ、友達ですかぃ。」

沖田は驚いたように一度目を大きく開くとプハッと、吹き出してそういった。

銀時「な、ちょ、何がおかしいの!?」

沖田「いーえ。やっぱ、銀時さんって、面白いですねぃ。あんな凶暴な魔物を友達だなんて。強いのか弱いのかわかんねぇや。」

沖田はなおも笑いながらそう言う。

確か、神威に友達になろうといった時もこの反応をされたな。
魔物と友達になることはそんなにおかしいことなのだろうか。

沖田「ねぇ、土方さん。銀時さんが森に行くの許してやってくだせーよ。大丈夫、俺も一緒に行きやすから」

沖田は、土方の方を見ていう。

銀時「え!マジで!?やったぁ!沖田くんはやっぱり話がわかるね〜」

土方「なっ、…総悟!一体何を考えてんだ!!」

沖田「だから、俺がついてるんで銀時さんには危害を加えさせやせんよ。土方さんも過保護すぎでさぁ。…それに、魔物全員が悪いもんじゃないですぜ?」

少し目を伏せて沖田がそう言うと、土方はハッとしたような顔を浮かべて、小さく、わりぃ…と謝る。

銀時「?お前ら、一体なんの──」

沖田「あっ、でも銀時さん!今日はもう夕方なのでダメですぜ!」

銀時「えーっ!
…あ、でも沖田くんは学校で疲れてるよね。わかった。じゃあおやすみの時まで我慢する」

沖田はそう言う俺をいい子だと撫でてくる。

…同い年なのに恥ずかしいんだけど…

土方「なんで総悟にはそんなに素直なんだ?…まぁいい。明日は授業があるんだ。早く寝ろ」

いや、今起きたばっかりなんだけど…
というか、お腹も空いたし…

銀時「夜ご飯はー?」

沖田「寮の食堂で買いやしょう」

土方「寝てたのに腹は空くんだな」

銀時「うるさいっ!」

その後、俺たちは食堂でお腹を一杯にする。ちなみに、食堂で食べたイチゴアイスは、とーーっても美味かった。…これの値段、俺はただなんだよな?
特待生だかなんだかで。…ヤバくないか?

…っと思って聞いたら、寮に住んでいる奴ら全員タダらしい。

この学園を末恐ろしく感じた…

そして夜。消灯の時間だ。

土方「んじゃ、寝ろ」

銀時「おやすみー」

沖田「おやすみなせー」

しばらく経つと微かに2人の寝息が聞こえてくる。

…やべー、…全く、眠くねぇ。

いや、まぁ、夕方まで寝ていたんだから当たり前か。

羊を数えても意味が無いのは知っている。
だから、仕方なく俺はここにきてこれまであったことを振り返ることにした。

えーと、とりあえず最初は神威に攻撃されて、土方に助けてもらったんだよな。
んで、その後沖田にもあって…。
んで、すっかり寝ちまってその日のことすっかり忘れちゃったんだよな。
俺って寝ると災難に遭うのか?
いや、そんなこたぁないか。
んで、その後は始業式でーー

…ん?始業式?

✳✳

「ねぇ、沖田くん。その人の名前って…?」

「え、え…と。
あぁ、高杉晋助、でさぁ」

✳✳

っああ!!
思い出した!!

そうだった、あの変な生徒会長!
俺はそいつに会いに行かなくちゃ!

あることを思い出した俺は、明日のために静かな眠りについたのだった。

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