聖花陽学園の日常
□9話
1ページ/1ページ
「何してんだテメェ!!」
水で流されてビチョビチョになった俺はいつのまにかあの屋敷の外に出ていて、目の前には土方が立っていた。
とりあえず俺は入っちゃいけない森に入ったことを謝ったのだが、まだまだの眉間は緩みそうにない。
「あ、えーと、…で、何の用?」
「ああ゛?神威にあったんだろ?お前、あん時のこと忘れ…
たんだったか…」
あん時のこと?
ああ、初日俺が森に入って襲われた時のことか。
「あー、それ、思い出した、よ。うん」
「やっぱり覚えてねー、…って!?はあっ!?思い出したっ!?」
「ああ、まあ、なんとなく、神威に聞いてさ。
…えっと…助けてくれたお礼、してなくてごめん。…ありがとう」
「っな…!?」
土方の顔がぼっと赤くなる。
なぁんだ、意外と表情出るんじゃん。
そう思い、くすくす笑っていたその時、声が聞こえた。
「やっぱり来たか。あーあ、せっかく仲良く話してたのに。水で流しちゃうなんてひどいや」
声のする方を見ると、そこには神威が立っていた。髪の毛にはみずがしたたっている。
羽が大きく広がっていることから、飛んでここまで来たのだろう。
「話してた、だ?拉致しといてよく言う。」
土方は神威を見るなり、キッと睨んで敵意をむき出しにする。
そんな2人の様子に俺は少し慌てる。確かに、初対面は最悪だった神威でも、さっきまで普通に話していた人だから、悪い奴とは思えなかった。
「なんでここがわかったの。」
そんな俺をよそに神威はさっきとは打って変わったように冷たい視線でこちら…いや、土方を見る。
「……銀時がいないと聞いて、まずなんとなくここだろうと思ってきた。
…それからは地中の水脈を操り、神威、お前の魔力の残滓を見つけた。あとはわかるな?」
土方も神威に対抗するように、あの鋭い目で睨みつける。
まるでバチバチとした電気の音が聞こえできそうな状況だ。
「ひ、土方?まさか戦うつもり…?」
「お兄さんのいう通りだよ?お前、確かに水に関しての技能はすごいと思うけど、人間が魔物に勝つなんて無理な話」
しかも、俺にね。
と、神威は続ける。
しかし、土方は意外に余裕そうな表情を浮かべる。
「確かに一属性魔法の上限がないお前に勝つ、なんてこと簡単じゃあねぇが、お前の得意とする炎魔法は俺の水に対して不利だろう?」
得意とする炎魔法…?
…確かに、あのときも火の鳥を生成したりしてたけど…
「根拠は?」
やはり、神威も同じところに引っかかっていたようだ。鋭い目つきを変えることなく土方に問う。
「これまで神威の被害にあったらしい奴ら全員から話を聞いた。そしたら殆どお前に炎魔法を使われたようでな。」
被害にあった人、全員…!?
それって、小中高3つ揃った学年の中から探し出して聞いたってこと…!?
そんなの、無理だろ…
「…本当、執着してるんだね…」
神威が、目を細めて呟く。
「ホント、神威になんの恨みが…」
「? こいつが執着してるのは俺じゃなくてお兄さ──────」
「さぁ早くどうするか決めろ神威いっ!」
土方が神威の言葉を遮るようにそういうので、俺は神威が今何を言おうとしていたのか聞き取ることができなかった。
しかし、俺がそれに文句を言おうと口を挟む前に、神威はニコリと笑って、手から炎を出現させていた。
まさか、やる気なのか…?
土方も臨戦態勢に入ってしまっている。
…まるで、俺だけが、1人取り残されたような、ただただ、火の揺らめく音だけ聞こえる空間だ。
「か、…かむっ──────」
俺が、どうにかこの状況を打破させようと神威の名を呼ぼうとしたその時、神威はさっきまでしていたニヤリとした笑顔をやめ、ふぅ、吐息を吐きながら火を消した。
それは、まさしく俺の望んだ光景だったのだが、あまりにも脈絡がなさすぎて、俺と土方は間抜けにも目を見開いて神威を見ていた。
「…やーめた。戦う気はもとからなかったし、ね。…あと俺、唯一気に入った人間に嫌われることするようなバカじゃないから」
気に入った、人間…?
それって、もしかして…、
「か、神威っ!…あ、えっと…!い、今の善行に免じて、お前の友達になってやらなくもないぞ!!」
顔が熱い。こんな子供みたいなことを、なんで俺の口は吐き出させてしまったのだろう。
でも、俺は神威が、…唯一気に入った、と言ってくれたことに関して、すごく嬉しかった。だから、なのかもしれない…
「トモダチ?〜ぷはっ、っ、くくくっ、友達、っ…か、なってくれるの?」
神威は一度吹き出した後、笑いが堪えきれないというように、目尻に溜まった水滴を人差し指で拭いながらそういった。
そんな情景に、ますます俺は羞恥を隠せなかったのだが、土方の呆れたような言葉で俺は我を取り戻す。
「……あのなぁ、銀時…。
いや、今日はもう良い。疲れただろうからな。
…だから、とりあえず寮に戻るぞ、、明日は休みをもらおう。後少しで朝になる」
落ち着きを取り戻した土方が、これまた冷静にそう告げるので、俺は特に何も言うことができず、ただ首を縦に振った。
前を歩く土方。おそらくこれはついてこいという意味で、反抗する意味なんてないのだが、こちらをじっと見て動かない神威が気がかりだった。
だから俺は、土方を見失わないよう注意しながら後ろを振り向き、言葉より伝わりやすい表情、…笑顔を浮かべた。
…その後は、よく覚えていないが、不眠という行為は俺には辛すぎたようで、沈むようにベッドに入ったと思う。ああ、そうだ、確かその時、土方は今回は覚えていろよ、と念を押してきた。よかったな土方、俺はちゃんと、覚えているぞ。