氷点下を撃ち抜く。

□紅き瞳のワルキューレ
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 オルテ北部の密林地帯に、飛行機に乗った漂流者が来たのは3日前のことであった。そいつは、その地に棲む犬人によって空神様と崇め奉られたが、その犬人は、ある秘密の存在を大分前から抱えていた。
「おい、空神様はいらっしゃらないだろうな」
「ああ。『アレ』を空神様に知られては、俺達は見放されてしまうかもしれないからな」 
 犬人が『アレ』と呼ぶものの場所に向かって、2人(2匹?)は静かに静かに歩いてゆく。神殿のような施設の地下に、犬人の一部しかその存在を知らないものがいるのだ。
 そいつは人間の姿をしている。しかし、犬人が知っている人間よりずっと禍々しい外見で、訳の解らない言葉を話し、さらに訳の解らない筒のようなものを沢山持っている。
 だから、犬人は、あれは人間ではなく、悪神の類だと結論付けた。外へ出してはならず、さりとて殺せば悪神の祟りがあるかも知れない。そこで、神殿の地下に閉じ込めた。
 空神様にこんなことを知られれば、悪神を嫌って去ってしまうことすら有り得る。それだけは何としても避けたい。
 ところが、今日は少々運が悪かったらしい。
「おい、わんこ。どこ行くんだバカヤロウ」
 犬人は一瞬立ちすくみ、恐る恐る背後を見た後、空神様の姿を認めると全速力で地下へ駆け出した。が、それで許してくれる空神様でもない。
「待ちやがれぇぇぇ、コノヤロウ!!俺見て逃げ出すたぁどういうことだバカヤロウコノヤロウ!!」
 言葉が通じていないことは些細な問題に過ぎない。犬人は空神様のお怒りで雷が落ちませんようにと祈って、例の悪神のもとに辿り着いた。
 背後から追ってくる足音が急に止んだかと思うと、呆然とした空神様が『アレ』を凝視していた。
「…何だこれぁ…」
 犬人達は悲嘆の声を上げてへたり込んだ。
 

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