◆小説◆
□《婆ちゃんの愛》
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その日私はハマっていた。
確率1/180の台。
開店からいきなり千回ハマりである。
甘デジコーナーでの千回ハマりは非常に目立ち、観客が出来てしまった。
現金投資中にハマるのは痛いが、一日打っていればこんなハマりは想定内。
28回回っているのだ。
4万円近く入っているが、ヤメるわけにはいかない。
この店では1箱およそ4千円になる。
元を取るには10箱必要だ。
甘デジコーナーで10箱出すのは難しい。
しかし、私は知っている。
この台が甘デジではないことを。
確率だけを見て1/150〜250の台を甘デジコーナーに置く店は多い。
だが実はミドルとたいして変わらない仕様なのである。
絶対にプラスにできる。
私は確信していた。
程なくしてようやく当たり、3連チャン、下1箱。
爆発を期待していた観客は散っていった。
ふ〜、やっと静かに打てる。
そこへひとりの婆ちゃんがやってきた。
「いくら入れたんだい」
え?
4万ぐらい。
「もうヤメときな」
いやまだこれから……。
困惑している私に婆ちゃんは厳しく、そして優しく言った。
「その1箱飲ましたら帰んな。そしてもう二度と4万円も入れるんじゃないよ。」
婆ちゃんは去っていった。
1箱飲ましたら帰んな、か……。
それは無理かもしんないな。
でも絶対プラスにしてみせるよ!
なんとか1箱以内に次の当たりを引き、出玉は増えていった。
下5箱ぐらいになった時、また婆ちゃんが来た。
「それ以上は出ないよ。」
いやいや。
「元取ろうなんて考えるから失敗するんだ。アタシゃ何人も見てきたんだよ。」
婆ちゃん……。
「わかったね。アタシゃもう帰るよ。アンタも暗くならないうちにお帰り。」
……ありがとう、婆ちゃん。
本当に心配してくれてるんだ。
でも、ごめん!
アタシは続けるよ!
結果、26箱出て無事プラスに。
ありがと。
またね、婆ちゃん。
おしまい
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