神授国騒動記


□9話
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部屋には仄かな甘い香りが漂っていた。

それは嗅ぎ慣れた紅茶の匂いでもあったが、それとはまた別の匂いが混ざっているようだった。

「あ、おかえりなさいま。シェル様」

「ただいま」

一通りの執務を終えて帰ってきたシェルをマナは素早く立ち上がって出迎えた。

その横後ろではティーポットを持ったルリが主君に習うようにして会釈をする。

その視線が一瞬気まずそうに宙を彷徨ったのが気にかかりはしたがシェルは何も聞かず2人に挨拶だけをした。

「今日の執務はもう宜しいのですか?」

「ああ。・・というか、明日の為にもう休めと、リクセント達がな」

明日はいよいよシェルの誕生日。

すなわち彼の誕生式典が行われる日のことだ。

主役であるシェルの気が休まる時はほぼないと言っていいだろう。

だからこそ休むようにとリクセントも気を使っていったのだろう。

「お優しい方ですね」

「ん〜〜・・まあな」

純粋なマナの意見にシェルは苦笑を浮かべてシェルは一瞬視線を逸らした。

優しいといえば、優しいのかもしれないが、リクセントのそれはかなり偏ったものだ。

人によってその優しさの大きさ、幅は様々になる。

特に仲の悪いバックスへの優しさは皆無に近いと言っていいだろう。

いや、もしかしたら本当に皆無かもしれない。

ある意味続けづらい話題に、シェルは何か他の話題はないかと視線を動かした。

そしてテーブルの上に置かれていたものに気がついた。

そこにはこの部屋に入った時からずっとしていた紅茶以外の甘い匂いの元があった。

既に切り分けられてそのうちの1つが小皿に乗っていてそれは食べかけだった。

おそらくマナが既に食べ進めていたのだろうが、その美味しそうなケーキに話題を変えるには丁度いいかと判断した。

「美味そうなケーキだな。アキが作ったのか?」

表向きでは城の厨房勤めをアキが始めてからはマナやシェルの口に入るものは基本全てアキが作っている。

彼の作る料理はとにかく本当に美味しい。

だからこの状況に不満などあるわけはなく、寧ろ大歓迎といったところだ。

だからこのケーキもきっとアキが作ったものだろうとシェルは予想したのだ。

「違いますよ」

しかしシェルの予想はきょとんとした表情をしたマナの言葉によってあっさりと否定された。
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