神授国騒動記
□8話
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『遺系譜目録』提出より数日後。
例の忌まわしい噂は完全に消えうせ、城の中は穏かな空気を取り戻していた。
取り立ててそれが顕著なのが、シェルの私室とその近辺だった。
「例の噂もすっかりなくなって。本当に好かったです」
「うん。これもルリ達やレイ殿が頑張ってくれたおかげだよ」
にっこり微笑むマナにも既に不安な様子は見受けられなかった。
例の噂の事を話してももうすっかり大丈夫なようで周りの者達も心の底から安心する。
「勿体無いお言葉ですわマナ様。我々はマナ様が安心して笑顔でいてくださることが何よりなのです」
「心配かけてごめんね・・・」
あの時の自分の不甲斐なさを申し訳なく思って謝るマナだが、ユラはそれに首を横に振った。
「お気になさらずに。マナ様のご心配をするのは私達にとっては当然の事ですわ」
「お元気になってくださって何よりです」
「・・・役1名、逆に元気がなくなった奴もいるけどな」
ぽつりとクロウの零した言葉を耳ざとく拾ったその元気のない者の姉2名は、その当事者たる弟の方を見た。
視線を向けられた張本人、アキはそれにも気づきはせず、先程からなにやら部屋の隅でぶつぶつと呟き続けていた。
「なんで、俺が・・・なんでこんな事に・・・」
「えーっと、アキ・・・?」
その様子を心配したマナがアキに声をかけようとしたが、不意に肩に誰かの手が置かれて止めた。
「ユラ・・・?」
「大丈夫ですわ。マナ様。お気になさるような事ではございません」
「でも・・・」
「あれはただの恋の悩みと言う奴ですよ」
口の端を吊り上げて楽しそうに笑うルリのその言葉に、それまで1人の世界に閉じこもって呟き続けていたアキがしっかりと反応した。
「人聞きの悪い事言うなーーー!」
怒りの様相は見せているものの、顔が別の意味で赤い事を察しているルリにとっては、ますます面白さを煽られるばかりだった。
「本当の事でしょうよ。おめでとう。ついにレイ殿と恋人同士ね」
「言うなーーー!」
ここぞとばかりの双子の姉の精神攻撃に、アキは頭を抱えて室内を転げ周りたい気分になった。