神授国騒動記
□8話
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彼女が危惧しているのは『遺系譜目録』のことである。
今日の昼間、会議の席にてそれをリクセントが宣言どおりに提出した。
勿論打ち合わせていた通り、あくまでレイ1人が行った事にして。
最初は怪しんでいた者達も、やはりレイの名前は効果覿面ですぐに信じ始めた。
それでも食い下がる者、当然宰相派の者達だが、もいたが、それはリクセントが巧みな弁舌をもって押さえ込んだ。
結果、信憑性が非常に高いということで、思惑通りそれがはっきりとした証拠となり、ウォルトゥスのあの発言はやはりただの戯言であったと高官達にはっきりと認識させた。
そしてその事は瞬く間に城中に広まっていった。
勿論今回は自然な噂の広まりを待つのではなく、ユラ達がそれとなく噂を流して早急に広まるようにしたのだ。
おかげで噂は見事早急に沈静化した。
おまけとして更にレイは尊敬と恐れの入り混じった視線で見られることになったのだが。
しかしこの話を聞いて最も心穏かではなかったのがラエンナだ。
『遺系譜目録』という聞きなれないモノの名前に最初は全く興味すら示していなかったのだ。
自分には関係ない。
せいぜいシェルを貶めるねたが1つ減って少し残念がった程度だ。
しかしそれは『遺系譜目録』の詳細を聞いてがらりと変わった。
そんなものを自分の子供が生まれた後に使われれば間違いなくデュカリオンの子でないとばれてしまう。
他の者達は疑っていないだろうが、あの2人・・・
デュカリオンと幼馴染であったリクセントとバックシーズだけは違う。
確実に自分の腹の子がデュカリオンの子供ではないと疑っている。
これまでは調べる術などないと高をくくっていたからそれも気にはならなかったが、ここに来てその証拠をつかめる方法が存在してしまった。
不敬罪を理由に調べさせまいとしてもリクセントならそれさえも何らかの方法ではね除けるだろう。
何よりも国王代理でもある王太子のシェルに進言されれば幾ら王の妃とはいえ逆らう事はできない。
自分よりも彼らの方が明らかにシェルの信頼は大きいのだから、シェルは彼らの言葉を信じて腹のこの血筋を調べるよう周りに命令するだろう。
そうなっては自分は終わりだ。
輝かしい未来どころか、その光りは永遠に閉ざされてしまいかねない。
「なんとかしなければ・・・・・そうよ、あの方なら、きっと」
そうぶつぶつと何やら呟き、ラエンナはふらふらとおぼつかない足取りで部屋を出ていった。