神授国騒動記
□5話
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「しかし今回は長引いてるよな」
「まあ、母は1度風邪をひくと症状が少し長引く人ですから」
「まあ、大事にしてくれって伝えてくれ。こういう状況だ。リクセントは帰せないから申しわけないしな」
現在のこの城の中でシェルの側についている人間でまともに宰相であるウォルトゥスに対抗できル相手は公爵家の当主であり執政官長官であるリクセントただ1人である。
その為リクセントには常にウォルトゥスを始めとする彼についている全ての文官への抑止力になってもらう為に常に城に留まっていてもらわなければならないのだ。
リクセント本人は了承している事とはいえ、彼の妻が病に臥せっている時に会いに行かせることもできないというのは本当に申し訳ない。
「気にする必要はありませんよ。母も納得していることですから」
「・・・長引くといえば」
レイが本当に気にした様子もなく微笑みを浮かべてそう帰した時、不意にユラが何か思い出したように呟いた。
「どうしたの?姉様」
「いえ。そういえば、随分と長いと思ったから。あの愚弟が合流できずにいるのが」
その瞬間、ぴしりっと何かが固まる音が聞こえたような気がした。
「そ、そういえば・・・そうね・・・」
「ふふふっ。本当にね。どうしましょう。・・・吊るすだけでは甘すぎかしら」
最後の方はマナだけに聞き取れない音量で。
暗転し雷が落ちた。
今日は確かに雨雲が立ち込めているが、それが自然現象でないことはその場にいる全員がすぐに解った。
そして恐怖に身を振るわせ始めるもの数名。
その中になにやら場違いに思えるぽんっと手を打つ音が聞こえた。
音を発した主はレイだった。
「ああ、そういえば。私、邸の方に忘れものをしていました」
「・・はっ?」
唐突なその発言にその場にいた半数のものが面食らった。
「お前・・何言って」
「それでは、私は1度帰らせていただきますので。あ、今日はまた後できちんと顔を見せますのでご心配なく」
「ちょっ、話をきけっ・・」
聞くはずもなくあっさりとレイは開けた扉を閉めて廊下へと姿を消していった。
何故か部屋を出る際マナの顔をじっと見ていたのが気になる。
「・・・なんなんだ?あいつ」
「さあ・・・」
「本当に面白い方のようですわね」
小さくそんな事を呟いた姉の言葉を聞き取ってしまったルリが何かを感じ取り、「ひっ」と悲鳴をもらした事に気づく者はいなかった。