神授国騒動記
□4話
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机の上を所狭しとケーキ類を一とする菓子やら飲み物やらが占拠していた。
それを眺めていたこの部屋の主であるシェルは、次にこれの原因となった人物を見つめた。
「バックス・・・これはなんだ?」
尋ねる前からにやにやと意味ありげな表情をしていたバックスは、シェルの言葉に殊更笑みを深めて口を開いた。
「いや〜。お前の本格的な春到来を祝ってパーっといこうかとな」
「お前もか・・・」
バックスの言葉に顔を引き攣らせているものの、それにはほんのりと赤みが差している。
そのシェルの横で一連の話を聞いていたマナも顔を赤くする。
ただしこちらはかなり嬉しそうな表情である。
更にその横では平然とした様子で先日の一件で決まったとおり無事に女官としてマナの近くにいるこになったルリがマナの分のケーキを切り分けていた。
あくまでマナの分だけを。
そんな彼女の女官としてこの城で過ごすための表立っての名前は「アカヒ」という。
どうやらいつも潜入操作などで使っている名前らしい。
ルリはアイリシアでは『水面の月』そのものの存在は伏せられているが、平時は本名で城の女官として行動していたらしい。
そのためこの国の宰相達がアイリシアの高官達とつながりがあるなら、その名前であちら側にマナのことが知れる危険性があるということで偽名を使用したのだ。
「しかし偽名はともかく、自分であっさり偽装書類準備できる手際ってのはどうなんだ?」
ルリの話をリクセントに通した時、彼がそれを請け負うはずだったのだが、それに反してルリがあっさりと用意したのだ。
あまりにも手馴れたその様は彼女がどれだけ場数を踏んできたのかが解る。
「あれくらいできなくて『水面の月』がつとまりますか」
きらりと目を光らせてそう言った彼女にもう納得するしかない。
「そもそも今回ははっきりとした後見役が居たからそれほど難しくなかったし」
「ルリ。すごいねよね」
にっこり微笑んで純粋にそう言っている天然なマナ。
そのマナの言葉にルリは感激に震えている。
「勿体無いお言葉です。マナ様」
「・・・本当に姫さんって、天然だな」
「そうだな・・・」
2人のやり取りを見ていてシェルとバックスの2人は改めてそう思った。
「でも、そんな姫さんが好きなんだろ?」
「まあ、な・・・って!」
自然な流れでバックスの言葉をあっさりと肯定したシェルは、ハッとして顔を上げると目の前にはにやにやとした表情に戻っている幼馴染の姿があった。
その様子に何か憤りやら恥ずかしさやらを感じて内心シェルが叫び声を上げたい気分になっている横でマナはまた顔を赤らめて嬉しそうにしていた。