葬送歌人
□4:女難の相
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その日、シヴァは朝から信じられないものを見てしまった。
普段なら必ずエレシュと共に起きて来て、それでも仕事を散々嫌がるディエス。
それをエレシュが叱り倒してようやく何とかしぶしぶ嫌がりながらちまちま始める。
そういう光景がほぼ当たり前であるはずなのに、今日の主君はどうしたというのだろうか。
エレシュとは一緒に来ていないし、何故か仕事もすぐ始めて次々に片付いていっている。
目の前でゲーテはその姿に輝いた瞳で尊敬の念を送っているが、シヴァは寧ろこれは何か自分の夢なのではないかと。
ディエスが率先して大人しく仕事をする事などありえない。
それよりもエレシュと一緒に来ないなんて事はもっとありえない。
まさか喧嘩したのかと思ったが、シヴァはすぐにそれはないだろうと考えた。
もし喧嘩などしてもディエスはエレシュの傍を絶対離れようとしないだろうし、もしも一方的にディエスの機嫌が悪くなった場合エレシュが暫く監禁されるということは過去にも何度かあったが、どう見ても今目の前で上機嫌に書類を処理している主君を見る限り確実にどちらでもないだろう。
では本当に真面目に仕事に取り組む気になったのか。
それはそれでなんだか恐い気もする。
雨が降るという可愛らしいレベルのものではない。
ひょっとしてどこかの世界の国が滅ぶか、死神達がむやみやたらに苦痛を強いられる前兆なのではと考えてしまい、シヴァはぶるりと思わず身を震わせていた。
そんなシヴァを横目で捉えたゲーテは、心配そうにシヴァに声をかけた。
「あの・・シヴァ様。大丈夫ですか?」
「ん・・・ああ、大丈夫だぞ」
「そうですか」
シヴァが心配させまいと笑顔を向けながらそう言うと、ゲーテは顔を赤くさせながら納得したように頷いた。
「あ、そういえば、エレシュ様も大丈夫でしょうか。いつもなら陛下と一緒にいらっしゃるのに今日はお姿がまだ見えませんし。どこか具合でも悪いのでしょうか?」
そう言って今度はエレシュを心配し始めたゲーテにシヴァはうーんと唸って答えた。
「多分大丈夫だろ。じゃなきゃ、あそこで陛下が上機嫌で書類整理してるわけがない」
エレシュの体調が悪ければ、何があってもディエスは彼について看病している事だろう。
ゆえにそれは今は絶対ありえない話である。