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□ディエス編
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自分の最愛の伴侶が誰かのせいで泥だらけの姿になってディエスがぶち切れないわけがない。
例えそれが事故だとしても。
エレシュの不注意もあったとしても。
ましてやディエスがこんな状態に成程雪を降らせて、後処理をしなかったせいだとしても。
そんな言い訳が目の前の主君に通用するわけがない。
あまりの殺気にディエスのそれに慣れている死神であっても耐えきれるものではなかった。
がたがたと震え、冷や汗を流し、そして反射的と言っても良い動作で正座をした。
本来ならエレシュを助けに行かなければならないのだろうが。
ディエスが出現した時点で2人の気力はなくなってしまったのだ。
すぐにでも消されるかと覚悟したが、ディエスは怒気と殺気は滲ませているものの2人を睨みつける事はなく、まっすぐにエレシュの元まで歩いていった。
泥に汚れるのも気にしていない様子だった。
エレシュを抱きあげて泥水から救出して戻ってくると、そこで初めて2人を睨みつけたのだ。
そして先程の言葉である。
「陛下・・・消そうなんて考えないで下さいよ」
不穏な空気を感じ取ったエレシュがディエスに苦言を告げる。
本当に今すぐにでも殺してしまいそうな勢いなのだ。
実際、ディエスが未だ2人を消さずにいるのは、単にエレシュを先に助ける方が先決だと思っていた事と、その後もどうしてやろうかと考えていたためだった。
「だけど、レス。お前をそんなにしたんだぞ」
「このくらいで大げさです。大体、ただの事故ですし・・・というか、陛下まで汚れてるじゃないですか」
本当にエレシュは自分が泥だらけな事は気にしてはいなかった。
それよりもディエスまで汚れてしまっている事の方が遥かに気がかりだった。
「別にお前の為ならこれくらいどうでも良い」
そしてこちらもこちらで似たような言葉を返す。
それにエレシュは僅かに頬を染めたが泥で隠れているため解りづらかった。
「と、にかく・・・消すのだけは駄目ですからね。俺の不注意でもあるのですから、許してやってください」
きっとその裏には貴重な労働力が減るからという思惑もあるのだろうな、とシヴァは思ってしまった。
彼がそう思えるのは、ディエスの殺気が僅かに柔らいだからだ。
やはりエレシュの効果は絶大だと思わされる。
その証拠にディエスは不満そうにしながらも渋々と言った様子で口を開いた。
「解った・・・お前がどうしても、っていうなら・・・」
「そうして下さい。後、さすがに俺もこの泥を落としたいのですが・・・それに陛下も・・・」
エレシュがそんな事を言うと、先程までの不機嫌から一転、何故かディエスは見る見るうちに上機嫌になった。
「だったら。俺が綺麗にしてやるからな」
「えっ・・・ちょっ・・・」
上機嫌なディエスの発言にエレシュが何か言う前に2人の姿はその場から消え去っていた。
自分達はほぼ無視で話が展開され、終息した事など2人は気にしない。
ただ、ただ、無事で済んだことに感謝し、そして一気に緊張を解いた身体で脱力し、深い溜息をついたのだった。