コメント

□シヴァ編
3ページ/3ページ

『泉』から入って出た先は森の中。

ここがどんな世界で、この森がどういう場所かというのも今はあまり関係なかった。

目的であるゲーテの姿を探してシヴァはきょろきょろと森の中を歩いた。

時間がかかるかと思っていたが、案外早くその姿は見つかった。

出発地点からあまり離れていない場所。

少し大きめの座りやすそうな石に腰かけていた。

大人しく座っているものの、その表情からは動揺と不安が見て取れた。

どうすれば良いか解らず途方に暮れている、というところだろう。

とりあえず無事であった事に安堵して、シヴァは歩み寄りながら声をかけた。

「ゲーテ」

名前を呼ぶとぱっと顔を上げ、こちらに大きく見開いた瞳を向けて来た。

「シヴァ様・・・!」

何処も怪我もなく元気そうなその様子に微笑みかけるとゲーテは立ち上がり、慌ててこちらに駆け寄ってきた。

「ど、どうしてここに・・・?」

「『泉』に集まった連中に聞いて迎えに来た。ったく。心配したぞ」

「す、すいません・・・」

シヴァはからかうような口調で言ったつもりなのだが、ゲーテの方は怒られていると捉えてしまったのだろう。

俯いて心底申し訳なさそうに落ち込んでいるのが良く解る。

「そうかしこまるなって。別に怒ってないから。それより無事で何よりだ」

そう言って優しく頭を撫でてやる。

その瞬間ゲーテの顔が真っ赤になった事は、彼が俯いていたためにシヴァが確認する事はなかった。

「意外と早く見つかって良かった。あっちでも探し回ってたから、どうなるかと思ってたんだが・・・」

「探し回って・・・何をですか?」

顔を上げてきょとんとした表情をゲーテが向けるとシヴァは眉を寄せた。

「何をって・・・お前だろ。勿論」

「えっ・・?ふぇえええええっ!?」

シヴァの発言が予想外すぎてゲーテは思わず大声で叫んでいた。

今度の赤い顔はしっかりとシヴァにも見えているが、鈍い彼はそんな事は気にしない。

「ちょっ・・・お前、なんでそこで叫ぶんだ?」

「あっ、す、すいません!でも・・シヴァ様が僕なんかを探されていたのに驚いて」

「別にそこまで驚く事か?・・・まあ、いいや。これをお前に渡そうと思ってたんだ」

ごそごそとシヴァはあるものを取り出した。

透明な瓶に綺麗な七色に輝く宝石のような菓子が入っていた。

「うわ〜〜」

それにゲーテは思わず感嘆の声を漏らすが、すぐにハッとする。

「こ、これ僕に。ですか?」

「ああ。今回の仕事の土産だ。珍しかったとお前、こういうの好きだと思ったんだが。気にいらなかったか?」

鈍いシヴァは自分がどれだけ的外れな事を言っているのか解っていない。

ゲーテもゲーテでそれに気づかずぶんぶんっと思いっきり首を横に振る。

「と、とんでもありません。ありがとうございます!とても嬉しいです!!」

菓子自体も嬉しいが、何よりもシヴァがわざわざ持って帰ってきてくれた土産。

しかもゲーテの事を考えて持ち帰ってくれたのものだ。

ゲーテにとっては嬉しくない、嬉しい、どころの話でなく、幸せすぎて怖い。

「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「そんなに礼を言う事じゃないって。じゃ、帰るか」

「はいっ!」

何気ない事だとシヴァは気づいていないが、シヴァに迎えに来てもらった上に土産までもらえたゲーテはこのままどうなっても良いくらいに幸せだった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ