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□シヴァ編
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『泉』に到着すると確かにセケルの言う通り多数の死神達が集まり騒ぎが起こっていた。

何やら随分と慌てているのは何故だろうかとシヴァが疑問に思った時だった。

「あ、隊士長」

「シヴァ様だ」

微妙に歓声じみたモノが上がってシヴァは苦笑した。

何やら妙な期待をされているようで少々やりづらい。

その横で、意味ありげにセケルは溜息をついていた。

「何かあったのか?」

「は、はい。その、じ、実はですね・・・」

「落ち着け。落ち着け。それじゃあ、説明できないだろう」

そう優しく言って率先して説目をしようとした者の背を撫でてやる。

「だから。それが・・・」

はあっ、とセケルは溜息をついた。

そんな彼の言動が理解できずにシヴァは首を傾げた。

「で、何があったんだ?」

顔を赤くしている最初に話そうとした者はもう無理だとセケルには解っていた。

かといって、その者を羨ましそうに眺めている者達も駄目だ。

セケルは瞬時にまともに話ができそうな相手を選んで声をかけた。

それはなんとなく自分と同類と思える人物で、途中まで苦笑してシヴァの行動を眺めていたようだ。

「ああ。えっと・・・実は、『泉』に落ちてしまった奴がいるみたいで」

「落ちた・・・?入ったんじゃなくてか?」

「はい・・・」

随分と間抜けな人物もいたものだ。

しかし、落ちた所で何か問題があるとは思えない。

落ちてしまったのなら早々に帰ってくれば良いだけの話だ。

なのに何故彼らはこれほど騒いでいるのか。

「別に慌てる事はないだろう」

思っている事をシヴァは口にし、セケルもそれに同意する。

「いえ。普通ならそうなんですけど。落ちた奴に問題があって・・・」

「落ちた奴に問題って・・・誰が落ちたんだ?」

「・・・ゲーテです」

その名前を聞いた瞬間、シヴァもセケルも固まった。

特にシヴァは、ずっと探していた人物がまさかそんな事態になっていたとは思いもよらなかった。

どうりで全く見つからないはずだ。

「いや、ちょっと待て・・・確か。なあ、セケル。ゲーテの奴って・・・『鏡』は・・・」

「持って、いなかったと思います」

「あぁ〜〜」

自分の記憶が間違いでなかった事に、強いショックを受けて額を押さえた。

通常死神は異世界から帰還するために必要な『鏡』を全員持っている。

ディエスが中々異世界に行かせたがらないエレシュでさえだ。

だがただ1人例外がいる。

その1人というのがゲーテだ。

何故持っていないか。

それは彼が異世界に全く行く事のない、行けない死神だからだ。

理由は、異世界で危険な目にあっても上手く対処できないだろうと判断されたからだ。

死神としてはかなり珍しいが、周りはあまり気にしていないし、本人も今ではあまり気にしていない。

しかし、その為に『鏡』を渡していなかったのがあだになったとは。

「仕方がないな・・・」

やってしまったモノはどうしようもない。

自力では帰ってこれないゲーテが落ちてしまったのなら、とるべき道は1つだ。

「俺、ちょっと迎えに行ってくるから。お前達は心配せずに持ち場に戻ってろ」

「はい。解りました」

そうなるだろうと思っていたセケルはシヴァの予想通りの行動に即答した。

「じゃ、行ってくる」

そう言い残してシヴァは『泉』に飛び込んだ。

その去り姿はその場にいる1部の死神達にとってとてもまぶしく映った。

「・・・いいな〜」

誰がいったか解らないその言葉を、セケルはあえて聞かなかった事にした。
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