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□シェル編
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「さて、始まりました。イクシェルト陛下対ヘスぺリス3姉弟」

魔法具で拡張されたのであろう、その大音量の声を聞いた瞬間思わずシェルはこけそうになった。

声の主は明らかにキリウスで、視線を向けて見ればその横には順に何故かマナとクロウまで座っていた。

「な、何やってるんだ?」

シェルがそう思うのも無理はない。

しかしその声は届いていないのだろう、キリウスは喋り続けていた。

何やらノリノリに様子に彼の新たな一面を見た気がした。

「クロウくん。この勝負どう思いますか?」

「いや〜。今のところノーコメントでお願いします」

キリウスに振られたクロウのそんな言葉に、彼の心境が見え隠れしている気がした。

「それでは、皇妃陛下。何か一言」

「あ、はい・・・」

マナにまでふるのか、とシェルは顔を引き攣らせた。

あまり状況が良く解っていないのか、それとも普通に受け入れてしまっているのか、マナは何処か楽しそうだった。

「シェル。頑張ってください。ユラもルリもアキも、しっかりね」

それだけで4人全員のやり気が上がったのは言うまでもない。

既にシェルもこの場に起きているあらゆる事象の疑問は捨て去っていた。

マナに頑張れと言われたのだ。

当然頑張る気にまっている。

「それでは、始めてください」

キリウスの声と何処からか聞こえて来た鐘の音が合図だった。

シェルも3姉弟も同時に攻撃を開始する。

以前ルリとは1度だけ戦ったが、今回は姉や弟がいるためかもっぱら魔術の使用を中心に戦っている。

しかも詠唱が早くかなり厄介で、更にサポートするアキの暗器がのせいで余計に隙がない。

だがそれで後れをとるシェルであるはずがない。

前回のルリとの戦いでは件1本だったが、今回は2本。

万全の態勢で挑んでいるため危なげがなく、寧ろ事を有利に運んでいた。

周りにいる人間、特に軍部の者達も湧きかえっていた。

最初はシェルの二刀流や3姉弟のあまりの強さに面食らっていたが、今ではその凄い戦いに心底湧きかえっている。

と、そんな時。

「えっ!うわっ!!」

起こったその出来事にシェルは思わず声を上げた。

その光を感じ取った瞬間、剣を構えてきたそれを的確な場所で受け、そして高く空へと軌道を逸らした。

あまりの事にその場の空気がしんっと静まり返り、動きが止まる。

シェルも、ルリとアキでさえもだ。

ただ1人原因であるユラだけがにっこりと微笑んで、それを構えていた。

『聖銃』を。

「ちょっ・・・ユラ嬢!今のは・・・っ」

「私は、『実戦に近い』と最初に言いましたが」

確かに言った、言っていたが。

誰が『聖銃』なんてモノまで使うと思うのか。

ルリやアキでさえも知らされていなかったのは、2人の反応を見れば明白だ。

自分以外の人間だったら確実に死んでいたどころか、大被害が出ていた。

実際、ユラはシェルだから使ったのだろうが。

しんっと辺りが静まり返っていると、漸く1つの声が上がった。

「わぁ。さすがシェル様。凄いです」

マナの実に素直で場の空気を読まない、読めない反応。

どうして、と思うが、同時にマナに「凄い」と言われた事に喜びを感じる自分がいたりする。

「さあ、陛下。続けますよ」

そう言って再び『聖銃』を構えるユラ。

「ああっ!もうっ」

叫びながらもマナのおだてに完全に載せられた自分を感じながら、シェルは黙って模擬試合(ほぼ実戦)を続ける決意をしたのだった。
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