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□シェル編
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その日が自分にとって、人生のブラックリスト入りになるなんて。
この時、シェルはまだ知る由もなかった。
執務室で今日も山積みの仕事をこなしていると、何やらにこやかに微笑んだユラが入室してきた。
その手には女官としての仕事の一環であるお茶などはない。
代わりに何故かレイが一緒だった。
しかもこちらもやけに上機嫌に微笑んでいる。
怪しい・・・・・
一瞬の内にそう判断した。
この最凶コンビが一緒というだけでも既に怪しさどころか危機感は最高潮だ。
それに加えあの微笑み。
随分と意味ありげな微笑みだ。
「陛下。少々お話があるのですがよろしいでしょうか?」
「あ、ああ・・・」
普通でも嫌とは言わないが、嫌とは言えないオーラを纏ったユラに逆らえるはずがなかった。
自分は皇帝で、相手よりも本来立場が上というのはあまり関係ない。
何故なら相手はユラだから。
この一言で全てが片付く。
「で、なんだ・・・?」
「少々、お手合わせ願いたいのですが?」
「はっ・・・?」
言われた言葉の意味が解らなくてシェルは間の抜けた声を上げた。
「シェル様と実戦に近い模擬試合をしたいらしいですよ」
シェルの疑問に答えたのはユラの隣に立っているレイだった。
その事からもやはり彼が何か1枚噛んでいる事が予想できた。
何かある、と解っているのだから、断ってしまいたい。
しかし断るのに丁度良い理由が残念ながら見つからない。
それ以前にやはり断れないオーラが相手から出ている。
「・・別構わないけど。急になんで?」
「何度か実力は御拝見しましたが、正式とまではいきませんわ。そこで実際にお手合わせして真の実力を見極めたいと思いまして」
成程、とシェルは思った。
彼女は自分の主君の伴侶の本来の実力をしっかりと把握しておきたいと言った所なのだろう。
マナ至上主義の彼女らしいと言えば彼女らしい理由だ。
「解った。だが今は個々の書類を片付けないといけないから、またあとで・・・」
「いえ、今すぐで構いませんよ」
シェルの言葉を遮ってさらりと発言した執政官長官にシェルは眉を寄せた。
「はっ・・・?いや、お前・・何言って」
「今すぐ、行ってきて構いませんよ。対策はこちらで講じておきますから」
随分と気の利いた話だ。
だが相手はレイ。
それで終わらせる話ではない。
恋人の姉の機嫌を取っている、とも考えられるがふと、シェルは何か違和感を感じた。
「・・・ユラ嬢に何か言われたのか?」
「いえ。何も。ああ、その代わりと言ってはなんですが。来週2日ほど休暇を下さい」
「休暇・・・?」
「アキくんと用がありますので・・・」
「・・・しっかり買収されてるんじゃないか」
やはりなと思ったと同時に、心底アキが哀れに思えた。