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□エレシュ編
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飛び込んだ『泉』は本当に適当だった。

どの世界に辿り着けるのかは解らない。

もしかしたらとんでもない世界に迷ういこむかもしれない。

しかしディエスの追手を切り抜けられるのならと、そう覚悟を決めて『泉』に飛び込んだはずだった。

しかし良い意味での予想外。

そこはエレシュが知っている場所だった。

知っている場所で、安全で、良かったと思えるが。

何故ここにこれたのか解らない。

『泉』では決して辿りつけないはずの場所なのに。

「エレシュ」

唐突にかけられた声にも覚えがあった。

ただし、それは勿論ディエスの声ではない。

「アダム様・・・」

自分の主君よりも上に位置するその神がそこに立っていた。

ここは『界廊の大宗館』と呼ばれる多くの世界の統括点。

アダム、リリス、イヴの『界境の三種神』の世界。

もっともその内の1人は放浪癖の為頻繁にここをあけているが。

「先程、魂陵界に行ったのだが、お前がディエスから逃げているようだったのでな。余計な世話かと思ったが『泉』に入った時点でここに出るよう空間を捩じらせてもらった」

こちらが質問せずとも先に的確な解答をくれるアダムにエレシュはさすがだと素直に思った。

「そうですか。ありがとうございます。助かりました」

「ディエスは今『泉』にも入れないし、勿論ここにもこれない状況にしてある。あいつ怒りを大きくするだけかもしれないが。せめて今はゆっくりしていくと良い」

「いえ、それで充分です。何から何までありがとうございます」

とりあえず今さえ時間稼ぎができればそれで良い。

後の事は後で考えよう。

「それで。何故ディエスから逃げ回っていたのだ?」

本当に珍しいものを見る目をアダムから向けられる。

だがそれも仕方がない。

基本的にエレシュがディエスから本気で逃げまどうなどということはないからだ。

実に久しぶりに魂陵界を訪れ、そこで更に珍しいものまで目撃してしまった。

ちなみにディエスの方はあの時点ではアダムの存在に気づいていなかった。

何時もなら世界に違和感を感じて気づくが、エレシュを追いかけるのに必死になっていたディエスが他の事にまで気が回るわけがない。

最も『泉』を通れなくした事で確実に気付いただろうが。

「実は・・・これを・・・」

そう言ってエレシュはアダムにあるモノを見せた。

ディエスから逃げ回っている時もずっと手放さずにいたモノだ。

この逃亡劇の原因でもある。

これを見られるわけにはいかず、その為にはディエスを振り切るしかなかったのだ。

「ああ。なるほど・・・」

それを見せられた瞬間、アダムはエレシュが何をしようとしてディエスから逃げていたのか得心が言った。

「そういう事なら。それが終わるまで居れば良い。終わったら送っていこう」

「はい。ありがとうございます」

アダムのありがたい言葉にエレシュは3度頭を下げた。
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