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□エレシュ編
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エレシュは困っていた。

何処に逃げればいいのか解らない。

何から逃げているのかというと、それは勿論ディエスからだ。

それ以外にエレシュがこの魂陵界で逃げる必要性のあるモノなどいない。

ディエス以外はエレシュが一言言えばそれだけで追いかけてこなくなるからだ。

ただし外部から来た者は除くが。

物陰に隠れながらエレシュはディエスが来ていないか酷く警戒する。

エレシュが言ったとしてももし主君が言えば死神達はそちらを優先せざるを得ないだろう。

だが人海戦術はありえないことだった。

何故ならまずディエスは自分以外の相手がエレシュを追いかけまわす事を良しとしない。

例えそれが自分の手伝いのためとはいえ良い気分がしないのだ。

だから人海戦術は絶対にありえず、エレシュはディエス1人を常に警戒していれば良いのだが。

事はそう単純な話でもない。

ディエスは人海戦術よりももっと厄介な方法でエレシュを見つけ出せる。

それこそがディエスが死神達を使わないもう1つの理由でもある。

「ここも・・・すぐにでも移動しないと」

「ふ〜ん。何処に行こうっていうんっだ?」

聞き覚えのある声にどきっとした。

実に不機嫌な低音のその声に反応して振り返ると、案の定、そこにはディエスがいた。

「陛下・・・!」

「俺から逃げられるわけがないだろう」

「・・・・・」

ディエスに言う事は間違っておらず、エレシュは何も言い返せなかった。

この魂陵界はいわばディエスそのモノ。

つまり何処に逃げたところですぐにディエスにばれてしまうのは当然のことだった。

この魂陵界にいる限りは。

それをエレシュは誰よりもよく解っていた。

これが無謀な逃亡であることは。

だが今回はどうしても逃げ切らなければならない理由があった。

となると、やはり手段は1つしかない。

「いい加減に観念しろ。お前が俺から逃げていいと思っているのか?」

「思いません、けど。・・・今は逃げなきゃいけない理由があるんです!」

「だからその理由はなんだ!?理由があってもお前が俺から逃げるなんて許さないからな」

理由を聞いていながら理由は関係ないなどかなりむちゃくちゃで矛盾しているがそれでこそディエスだ。

1歩、また1歩とエレシュは後退する。

「今なら軽いお仕置きでゆるしてやるけど。断るなら酷いお仕置きするぞ!」

どの道お仕置きはするつもりらしい。

「お仕置きはしてもいいですから、見逃してください」

切羽詰まっているためかエレシュは自分がある意味凄い事を言っている事に気が付いていない。

そして一瞬の隙をついてディエスから離れるために走り始めた。

「まっ・・・!」

ディエスが制止しようとした時には既に遅く。

そこに走りついたエレシュはディエスからのがれる唯一の手段である『泉』に身を投げ込んでいた。
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