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□アキ編
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そして今回。
レイは立ち入り禁止令を回避するためにキリウスを利用したのだ。
キリウスからの頼みごとを持っていけば一応明確な用はあるのだから問題はないだろうと。
「お前はなぁ・・・」
「アキくん。怒ってますか?」
「呆れてるんだよ。どうしてお前はそう、一々おれに構いたがるんだ」
「好きな相手のそばになるべくいたいと思うのは当然ですよ」
臆面もなく言われたその言葉に一瞬目を丸くしがアキだが、すぐに顔が真っ赤に染め上がった。
「お、おま・・・っ、新しいレシピ考えれば良いんだな!?」
それが完全な照れ隠しであるという事は、アキに関しては何故か鈍いレイもすぐに解った。
しかしそれを指摘すればこじれてそれこそ全面的に厨房への立ち入り禁止を言い渡されかねない。
ここはなんとか我慢した。
「ええ。そうらしいですね。できれば通常と、雪星祭用のケーキタイプものと」
「雪星祭か・・・商魂はあるみたいだな」
雪星祭とは元々アイリシアでSesの24から25に行われていた行事だ。
1年でその2日間が最も星が綺麗に見える日であり、同時に必ず穏やかな雪が降る日である。
星の輝きが雪に反射し、あまりに美しい光の結晶のように見える幻想的なその光景から、何時しかそれは1年に1度の水神から人への褒美だと言われるようになった。
同時にそれを祝うために行われるようになったのが雪星祭。
それはクレイリア帝国になっても継続される。
そして何故かアイリシアではその2日のどちらかでケーキを食べるという習慣があったため、オーナーは逸早くそれに目をつけたのだろう。
「まあ、別に良いけどな。でも、考えたレシピは、完成したら真っ先にマナ様に食べていただくぞ」
なんでも主君最優先なアキとしては当然の意見だ。
「ええ。それはあちらにも既に了承したい頂いているようです」
「そうか。なら良い」
そうあっさり言ってアキは既に新作のレシピを思案し始めたようだ。
仕方ないこととはいえやはり何処までもマナ優先なアキにレイは少し切なくなる。
「そういえば・・・」
不意にレイはある事が思い浮かんだ。
「何故アキくんはそんなに料理がお上手なんですか。いえ、悪いというわけではないのですが。ユラ嬢やルリ嬢よりも上手いというのは・・・」
あの2人も料理が下手というわけではないのだが、アキの腕前はその遥か上に位置している。
何故姉2人よりもアキの方が上手いのか。
するとアキは変な顔になった。
「お前・・・あの2人にそれを期待できると思うのか?」
「・・・・・・愚問でした」
そしてどうしてアキがこんなに料理が上手くなったのかを何となく察してレイは彼に同情した。
そんなアキの考えたレシピは、後に店の最速完売記録を生み出すことになるのだが、それはまた別の話。