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□アキ編
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何しろ自分の店の大事な新作のレシピを、友人の知り合いとはいえ見ず知らずの赤の他人に簡単にいらしてくるような人間。
余程度胸があって計算高いのか、それともただの単純馬鹿なのか。
「で。なんでお前がその話を持って来たんだよ?」
オーナーがどんな人物なのかも気になるが、今はそれ以上にこちらの方が気になる。
まず間違いなく最初にオーナーがキリウスからアキに尋ねて見てくれないかと頼んだのだろう。
確かにアキとキリウスはそれほど接点はないが知らない仲ではない。
わざわざ間に第3者を挟まなければならないほど頼みづらくもないだろう。
しかも何故よりにもよって伝言相手をレイに頼んだかだ。
キリウスの事はあまりよく知らないが、例に頼むくらいなら直接言っているはずだ。
キリウスの性格云々ではなく、レイに対する評価からアキはそう結論付けた。
「ちょっとクロウと話をされているのを耳に挟みまして。それなら私がアキくんに伝えておきますよ、と」
「・・・利用したな」
アキにはその時のキリウスやクロウの引き攣った顔がすぐに浮かんだ。
耳に挟んだというのは本当の事だろう。
だがその後の展開はキリウスに対する親切心からでは決してないはずだ。
というか、そもそもアキは仮にも恋人であるにもかかわらず、レイがそんなモノを持ち合わせている事も疑わしいと思っている。
レイの真意はただの口実作りだ。
つまりアキに会いに来るための。
そう考えると少し嬉しい気もしないではないがすぐにその考えを頭の中から抹消した。
ましてやレイに知られてはならない。
何しろ、アキがクレマテリスで城の厨房で働き始めた頃、レイは頻繁に顔を見せていたのだ。
厨房勤めの人間はまともな人間が多い。
つまり、かつてレイに引っかかっていたような人間はいない、ということだ。
そうなると後に残るはレイに対する恐れが殆ど。
結果として今回のような蜘蛛の子を散らしたような状態になる。
あるいは仕事をしているように見えても気が気でなくなかなか作業が進まない。
挙句に手を滑らせて怪我をした者もいた。
そしてついにアキはレイに厨房立ち入り禁止令をだしたのだ。
何か明確な理由がない限りは厨房に来るなと睨みつけて。
さすがのレイもアキに怒られながらそう言われれば大人しく言う事を聞くしかない。
ほれた弱みと言うやつだ。
そしてその日以来、アキは厨房勤めの者達からひそかに「勇者」と呼ばれいる。