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□クロウ編
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アスクリオ家にとって庭は主だって訓練のためのものだが、植物の密集地帯となっている庭の端の方はもっぱら子供達の遊び場となっているのが現実だ。
大きい木があるため木登りで体力をつける訓練などもするのだが、さすがに大小ある木の中から年齢にあったもので行う。
幼いうちはなるべくそれにあった背の低い木で。
だから今ティクノスが登っている大きな木は彼の年齢とは随分と不釣り合いなモノなのだが。
「ティキお兄ちゃん。あぶないよ・・・」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
妹のサリーヌが心配しそうに見上げていてもそう言ってお構いなしだ。
3歳の弟であるカルクスはただ首を傾げて兄の様子を見ているだけ。
「あれをとって。クロウ兄ちゃんにほめてもらうんだ!」
ティクノスが登っている木には美味しそうな木の実がなっている。
それをクロウに見せて誉めてもらおうと思っているのだ。
折角大好きなクロウが久しぶりに来て遊んでもらおうと思っていたのに、父だけでなく、祖母や母まで出てきてクロウに話があるからと連れて行ってしまった。
祖母や母はまだともかく、父はお城で何時も一緒なのにずるいと思うのだ。
だからこの高い木で木の実をとっていったら、誉めてくれて遊んでくれるに違いないと子供らしい考えで動いているのだ。
「あと・・・ちょっと・・」
もう少しで手が届きそうで、思いっきり手を伸ばしたその時だった。
ティクノスの足が木から滑り、手も離れて身体が下へと落下していった。
サリーヌは思わず顔を背けて視線を逸らした。
しかし何時まで経ってもティクノスが地面にぶつかった音がしない。
恐る恐る顔を上げてそこを見て見ると。
「あっ。クロウお兄ちゃん・・・」
間一髪でクロウに受け止められ、助けられたティクノスの姿があった。
「ふぅー。危ないところだったな。何やってるんだよ。お前」
そう言ってティクノスの頭を軽く叩いた。
「・・・ごめんなさい」
大好きなクロウに怒られて、何時もは生意気なはずのティクノスも随分とおとなしい。
「あー・・・あれか・・・」
クロウはティクノスを地面に下ろしながら彼の目的を確認するため、木を見上げるとそこには例の木の実があった。
「よしっ。俺がとってやるな」
そう言うやいなや木から少し離れ、そこから助走をつけて一気に木の幹を駆け上がった。
あまりの早技、凄技に子供たちがぽかんとしている間に自分の背が木の実に届く位置の枝を掴んみ、そこに腕の力でよじ登るとあっさりと木の実をとってしまった。
そして降りる時は迷わずそこから飛び降り手見事に着地した。
「ほら。これが欲しかったんだろう?」
そう言ってティクノスにクロウはそれを差し出した。
しかしティクノスも他の子供達も動かない。
「あれ?ひょっとして・・・違ってたか?」
「す・・・すごーい!さっすがクロウ兄ちゃん!」
自分のあてが外れたのかとクロウが思ったその時、ティクノスがキラキラと瞳を光らせてクロウを見ていた。
否、ティクノスだけでなくサリーヌもカルクスすらだ。
「もっかい!もう1回やって!!」
「えっ!?」
見ればティクノスに同意するように後ろでサリーヌもカルクスもこくこくと頷いている。
3つの期待のこもった視線に、クロウはとうとう折れた。
「仕方ないな・・・もう1回だけだぞ」
「うん!」
本当は話も一段落したから、子供達も呼んでお茶にという、ネスタートの妻の提案で3人を呼びに来たのだが。
「・・・俺が怒られればいいか」
自分を慕ってくれる小さな子供達に悪い気がせず、そんな事を考えながら子供達の要望にこたえる事にしたのだった。