残暑お見舞い
□暑い日の怖い話
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ちなみに同じく旧アイリシアでユトリナ出身の三姉弟だが、こちらは暑い事は暑いが訓練で慣れているから比較的大丈夫との事。
どんな訓練かは聞きたくはない。
更に言えば、おそらくこちらはユトリナ出身だからと言っても、倒れでもしたら確実にきついお仕置きが待っている事だろう。
「うかつでしたね。シェル様が暑さに強いですから、うっかりしていました」
「強い・・・っていうか。あれは強すぎだろ」
苦笑を浮かべながらクロウは少し羨ましいような、そうでないような気持ちでもう一人の親友を思い出していた。
シェルは火神の分身の為かとにかく暑さや熱さに強い。
それこそ猛暑どころか、火山の火口でも平気で汗一つ流さず活動できる人間である。
昔は彼にはそういった感覚というモノがないのかと本気で疑ったモノだ。
しかしそれも火神の分身であるからそういうのに強い、と解れば納得もいく。
だから同じ神の分身であるマナも同じようなものかと少し油断していたのだが、あちらは水神の分身だ。
思い返せばシェルはユトリナに行った際ちゃんと寒がっていたし、何故そんな油断をしていたのかと誰もが後悔したモノだ。
否、それでも三姉弟は気をつけてはいたようなのだが、とうとうあの三人の気遣いでさえどうにもならないところまで来たらしい。
もっとレイが早く魔術を使っていればと悔やまれた。
「マナ様も確かに大変ですが・・・あの後、私がどれだけアキくんを宥めるのが大変だったか解りますか・・・?」
遠い目をしたレイにクロウは少しだけ同情した。
恋人よりも主君命なアキだ。
噂に聞いた程度だが、どうやら思いっきり罵倒されたあげく暫くの間無視されたらしい。
確かにレイにとっては今回の事は色々な意味で悔やまれた事だろう。
しかもマナが倒れてから三姉弟は全員が仮でマナにつきっきりとなってはやるせないだろう。
「まあ、せいぜい貴方もユラ嬢あたりに罵倒されれば良いですよ」
「仕方ないだろう。俺は軍部の方で倒れた連中の処置もあったんだから。っていうか、なんでそこでユラ嬢なんだよ?」
まさか自分とマナが兄弟だという事がレイにバレたわけではないだろうかとクロウは内心少し焦った。
ユラ以外はしらないはずだが、マナはクロウの兄弟なのだ。
心配でしかたがなく、すぐに顔を見に行きたかったが、軍部で倒れた者達の処置を放っていく事も出来ない。
幾らシェルの幼馴染で側近格、『緋晶』の隊長とはいえ、一軍人が倒れた皇妃の所に他に目もくれず見舞いに行けば何か妙な事を勘ぐられるかもしれない。
クロウもつらい所なのだ。
しかしおそらくマナ至上主義のユラにはそんな事は関係ないのだろう。
仮にも兄であるはずのクロウがマナの見舞いをこれほど遅くなった事に、理由があれ怒ってないかと問われれば答えは確実に否だろう。
まさかそこまで読んでユラの名を出したのかと、この頭の良い幼馴染ならあり得る話だと思って答えを待っていると、何故か憐れむような視線を向けられていた。
「・・・クロウは、いい加減気づきなさい」
「はっ?何を・・・」
「いえ。何も・・・」
明確は答えは貰えずに、たっだやはり憐れみを含んだ瞳のまま視線を外された。
目の前には既に皇帝夫妻の私室の扉があった。