残暑お見舞い
□暑い日の怖い話
2ページ/23ページ
暑い、というのはおそらく本当だろう。
不信、というのは彼が暑さをしのぐ為何かをしているのではないかと怪しんでいるからだ。
実際に生粋のエンプレス育ちであるはずの彼は、以前ユトリナに行った時平然としていた。
ユトリナ育ちのマナや三姉弟はともかく、自分もシェルも寒さに慣れていない分物凄く寒がっていたのに。
ただ一人平然といった様子を見せていた。
やはり今回も何かあるのではないかと勘ぐってしまう。
「失礼ですね。そんな都合の良い方法があるわけないでしょうが」
こう言う時まで心を読むのは正直本当に止めて欲しい。
「単純に耐えているだけですよ。文官の私が耐えているというのに、軍部の貴方がそれでどうするのですか」
「とはいってもな・・・軍の中にはもうばてて来てる奴もいるし。倒れた奴だっているんだよ」
ちなみに倒れたのは全員旧アイリシア出身の軍人達だ。
当初は任地などはそのまま据え置きという案も出たのだが、さすがに旧クレマテリス側だけが仮首都とはいえ中枢に着任しているのは問題だろうという意見が出た為改めて編成がくまれたのだ。
しかし今回はそれがあだとなった形だ。
まさか今年いきなりこんな猛暑とは思いもよらなかった。
十年に一度程度の確率のモノがよりにもよって併合一年目でくるとは。
せめてもう少し暑さに慣れていれば違ったかもしれないのに。
「さすがに右将軍は何とか耐えてるみたいだけど」
「ああ。あの元アイリシアの軍事責任者殿ですか」
新国家成立と共に行われた軍部再編では、元々四大国家の中で最も軍事に長けていた旧クレマテリス側が基準にされた。
その過程で軍事最高責任者である元帥と、その下である将軍の内左将軍は据え置きのまま、右将軍はちょうどといっていのか、旧クレマテリス側は前任者の不祥事で空きがでていたままだったので、そのままそこに旧アイリシアの最高責任者がおさまった。
これには当初旧アイリシア側から反発もあったのだが、この話を誰よりも早く受け入れたのは、意外な事にその旧アイリシア側の軍事最高責任者当人だった。
歳はバックスやリクセントと同年代くらいだろうか。
だから元帥よりも自分の方が歳下だから、という理由ではない。
その彼曰く、実は彼は他国ではあったもの、あの「鬼のネスタート」の武勇伝を聞き、昔から非常に尊敬の念を抱いていたらしく、元帥がその「鬼のネスタート」の息子、自分と同職になる左将軍のキリウスが孫だと知ると喜んで受け入れたという。
それを聞いた時のバックスは、「あんなのに憧れるなよ」と顔を引き攣らせていたとか。
しかしおかげであっさりと軍の再編の話がまとまった事は事実だ。
そしてこんな経緯から前右将軍のような事にはならいないだろうと、多くの人間が胸を撫でおろしていたものだ。
実際おかげで、今の軍部は旧アイリシアと旧クレマテリスの混合編成だというのに、なかなか良好な状態でいられている。