残暑お見舞い
□暑い日の怖い話
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新興クレイリア帝国は旧アイリシア王国と旧クレマテリス王国の二つの国から成り立った大陸を縦断する大きな国である。
その為東西はともかく、南北による気温の変化というのは激しい。
旧アイリシアの首都であったユトリナは現在大陸で一番北に存在する街。
つまり今現在においては最も寒い気候である場所。
対して旧クレマテリスは、大陸の南側に位置している。
だからと言って暑すぎるというわけではなく、比較的温暖という言葉ですまされるくらいだ。
ただし、それは時と場所と状況によって変わってくる、といいう言いまわしは違うかもしれないが、場合によっては変化があるという事だ。
例えばユトリナが大陸、ひいては旧アイリシアで現在一番寒い街と言われているということは、旧アイリシア領全体がユトリナのような寒さではないという事だ。
つまり南に行けば比較的寒くない地域も旧アイリシア領にはある。
逆に北寄りにある旧クレマテリス領の街は涼しかったりする。
では、逆に旧クレマテリス領で最も南に位置している街はどうか。
答えは誰にでも簡単に解る。
大陸で一番暑い街、ということだ。
そして気温は常に一定のモノではない。
季節によって変化はあるし、年によっても昨年よりも暑いとか、涼しいとかはあるのだ。
さてここからが本題だ。
現在クレイリア帝国の仮首都となっているエンプレスは旧クレマテリスの首都でもあった場所なのだが、旧アイリシアの首都であったユトリナが大陸最北の街であるのに対し、こちらは最南というわけではない。
比較的南側ではあるが、決して最南、というわけではないのだ。
だから夏になっても何時もより暑いな、程度のもので済む方なのだ。
そう、何時もなら。
例年通りなら全く問題はないのだ。
今年のような猛暑にならない限りは。
「・・・暑い」
そう呟いたのは産まれは違うが最も長く過ごしてきたのはここエンプレスであるはずのクロウだ。
しかも軍で鍛えているはずの彼が、寒さは慣れていないから仕方がないかもしれないが、暑さに関してこんな事を口にするのは非常に珍しい。
「今年は例年にない猛暑ですからね」
そう返してきたのはこちらは完全に産まれも育ちもエンプレスのレイだった。
クロウは平然としたように呟く彼に引き攣った笑顔を向けた。
「の、わりには暑くなさそうだな?」
「失礼ですね。暑いですよ。十分」
しかしそう言いながらもやはり口調は平然としたように聞こえる。
そんなレイにクロウはますます不信の目を向けた。