神授国騒動記
□終章
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マナ失踪事件から1か月が過ぎていた。
「つまりは、夫婦喧嘩ですよね」
何の戸惑いもなくさらりと口にしたレイの言葉にその場にいる全員が口を引きつらせた。
「そんなことさらっと口にするなよ!」
「だって事実じゃないですか」
確かにレイの言うとおり事実ではあるのだが、それを口にするのはなんだか間違っている気がする。
色々とな意味で。
「しかし夫婦喧嘩で国が分裂なんて、笑えない話ですね」
「だから口に出すなよ・・・」
「ですがシェル様。今回の事でも神の影響力というのは、かなり凄まじいものだという事がよく解ったではないですか」
「それは、まあ・・・」
マナとシェルがエルシオムから帰ってくるとアイリシアの情勢は一変していた。
頻繁に続いていた災害はあっという間におさまったのだ。
建物などへの被害はかなり多いが、死傷者は奇跡的に1人も出ていないらしい。
そんな中で、アイリシアの各地の神殿の巫女や神官の大多数が同時に同様の信託を受けたらしいのだ。
曰く、今回の水害は神聖な両性具有である女王を己の私欲のために利用しようとした輩と、その輩の企みに気づかず、不甲斐なさを見せた者達への厳罰。
そしてそれはアイリシア国民全体が負うべきものでもある故起こったモノ。
なぜならこれは国民の堕落と腐敗へが進んでいる事を意味している。
女王が清廉で高潔であっても、これではアイリシアの発展は望めない。
ゆえに国を洗い清めるために行った事である。
ゆえに死者は出していない。
出す必要などない。
本来ならまだ続くはずであったが、クレマテリスの王族の度重なる貢献、そして彼の者が女王と共に他国の守神である自身に深い祈りを捧げた事によりこれにて終結とする。
されど国が堕落し腐敗すれば、再びこのような事は起こるだろう。
だが古の国が再び蘇れば、双方の国の繁栄と発展は半永久的に約束され、このような事は2度と起きはしないだろう。
「実にご都合主義なこじつけですよね」
「だから・・・お前は」
「まあ、クレマテリス側にも似たような信託が降りましたからね。そのおかげでここまで早く締結に持ち込めたわけですから。良しとしましょう」
神相手にどうしてこいつはこうも偉そうなんだとシェルとクロウは顔を引きつらせた。
しかしレイの言うとおり、信託が降りてからの両国の動きは実に早かった。
即座にクレイリア帝国の復活、両国の併合に全会一致で賛成し、両国の間で取り決めが交わされたのだ。
特にアイリシア側の対応は水害発生時からは180度変わっていた。
水害がクレマテリスのせいだと罵っていた者達は態度を一変。
あの信託のおかげで逆にシェルは完全にアイリシアにおいて英雄扱いとなっていた。