神授国騒動記
□11話
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そこは紛れもなくクレマテリスの王城だった。
城の中でも普段あまり人の来ない場所ではあるが間違いない。
特にルリにはこの場所に見覚えがあった。
マナが例のアミュレットを返す為に抜け出し、ウォルトゥスと鉢合わせしたあの場所に違いなかった。
あの時の事は忘れようと思っても忘れられるはずがない。
しかしここが本当にクレマテリスの王城であるというのなら。
先程の火神の神殿とこの王城は直接繋がっていると言う事だ。
アイリシアの王城が水神の神殿に直接つながっていたように。
互いの国に似たような作りの神殿があり、それが互いの王城に直接通じている。
これが意味するのは一体何なのだろう。
もしかしたらかつてクレイリア帝国だった時の名残なのかもしれない。
かなり昔に絶えてしまったという転移魔術が施されているところからしてもその可能性は高い。
しかしだとしてもおかしな点はある。
何故火神と水神の神殿に互いの神を称える石碑が対となるように設置されていたのか。
特定の神を奉っている神殿で他の神を称えるという行為は本来ご法度のはずだ。
神に対する無礼に当たる。
そもそもクレイリア帝国が存在していた時代にあの2つの神殿が作られたのだとして、その頃の2神の扱いは一体どんなものだったのだろうか。
あくまで火神クレマチスはクマテリス王国の守神であり、水神アイリスはアイリシア王国の守神である。
風神と地神にも言われる事だが、4神はあくまで4大国それぞれの守神だ。
他の国で奉られたり、崇められたりすることはあれど、守神とはされていない。
あくまで火神はクレマテリス、水神はアイリシア、風神はアマラチェネット、地神はリンデヴァールを守護しているのみだ。
ならばクレマテリスとアイリシアの前身であったクレイリア帝国はどうだったのだろう。
クレイリア帝国を守護する別の神がいて、クレイリア帝国がクレマテリスとアイリシアに分かれたから新たに火神と水神がそれぞれ守護する事になったのか。
それとも・・・・・・・
「何はともあれ。途中から予想していた事とはいえ、少々これは問題ですね」
そんなレイの独り言を聞いてユラは何故彼が先程あんな質問をしたのか悟った。
何故アイリシアの王城が元は神殿であったかを聞いたのか。
それはこのクレマテリスの王城もそうだったからに違いないだろう。
つまり互いの国の城は、元は神殿で、それを増改築して現在の城の姿にしたのだ。
確かにユラもクレマテリスの王城を歩いている最中、それらしい名残のものを幾つか見ていた。
しかしその時は取り立てて気にもしていなかったのだが。
「確かに、これは少々問題ですわね」
例の神殿を途中はさみ、隠し扉があるとはいえ、互いの王城の、それも内部に直通する通路があったも同然なのだ。
もしこれを悪用すれば、互いの国の国王の暗殺すらも容易いだろう。
実際、歴史上の中にはそれをやってもおかしくないほど険悪な時代も、互いに野心をもった国王もいたのだ。
しかし事実そういうことが起らなかったのは、この隠し扉がこれまで気づかれていなかったと言う事だ。