神授国騒動記
□8話
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それまで静かさを保っていた城のある一角で酷く騒々しい音が響き渡った。
陶器の割れるようなその音は、後宮の中のもっとも豪華な部屋から響いたものだった。
その部屋の主はやけに荒れており、払った手に当たった花瓶が床で砕けた散った音だった。
元はシェルを産んだが為に正妃になり、その部屋を所有していた。
しかし現在のその部屋の主はデュカリオンの唯一の妃となったラエンナだった。
シェルの母親が死ぬとほぼ同時にその部屋にまるで奪い取るように移り住んだのだ。
ラエンナも亡き正妃も別段愛していなかったデュカリオンにとってその部屋にラエンナが移りたいとわがままを言っても別に咎める理由はなかった。
だから好きにさせた。
それを自分に都合よく勘違いした彼の妃は、得意げになってその部屋に移り住んだ。
王はあの死んだ女よりも自分の事を愛しているのだと。
偶々あちらに先に子供ができたが為に正妃にせざるを得なかったのだと。
だから幾ら第一子とはいえ、母親が死に、自分よりも愛されていないあの女の子供よりも、自分がいずれ生むであろう子供こそが王位を継げる。
そう信じて疑っていなかった。
だが彼女の思惑とは裏腹に、肝心の王の訪れは1度としてなかった。
それどころか自分以外の女が産んだ子供を可愛がっている。
ラエンナには一体王が何を考えているのか解らなかった。
度が過ぎるものはともかく、ある程度のわがままなら王は許してくれる。
それは自分が愛されているからだと思っていたが、それにしては王の訪れがないのおかしい。
だがラエンナには解っている事が1つだけあった。
このままでは自分は王の子供を身篭れず、王母という輝かしい地位に就くことはできない。
そのうえ互いに反目しあっていたあの女の子供が王位に就く。
死してなおあの女が自分を嘲笑っているような気がしてラエンナは我漫ができなかった。
だから彼のあの誘いに乗ったのだ。
ばれれば極刑も免れない。
しかし彼ほどの人物と組むならきっと上手くいく。
そう思ったからこそ賭けたのに。
「あんなもの・・・もし私の子に使われれば、陛下の子ではないと解ってしまう」
眉を寄せた青い顔で彼女は憎々しげに呟いた。